電話


「乱馬、あかねちゃん、今時間あるなら、ちょっと一緒に出かけて欲しいの。」


そのおふくろの一言で、外に出た俺とあかね。
連れて来られたのは携帯ショップだった。

「おばさま、携帯持つのかしら?」
「知らねぇ…。持っても誰と連絡取るんだよ。親父に持つ甲斐性なんて無いのに。」
「お仕事とか…じゃない?それにしても携帯ってスゴイ種類多いのね!」

そう言うとあかねは楽しそうに、色々並ぶ携帯の棚を眺め始めた。

しかし俺にはこの空間がどうも落ち着かなかった。
こういう無機質な物体がずらりと並ぶ空間に居心地の悪さを感じる。


友人の99%は持っている携帯。
全然こういうものに興味がなかったが、自然と目にするので別に物珍しくはない。
しかし見ても、欲しいとも何も感じない。
俺って若者じゃねーかもな…。
自分で親父臭い事を思いながら、苦笑していた。



「何してるの?乱馬、真面目に見なさいよ。」
ぼんやりしていると、おふくろが近付いてそう言う。
「え?何を真面目に見るんだよ。」
真面目にも何も、見てもさっぱりなのに、言っている意味がわからない。
「あかねちゃんもこっちに来て頂戴。」
「はい!」
そう言ってあかねを呼ぶと、どの携帯が可愛いか…等と議論を始めた。
このパールが入っているのがいいだの、角度で色が変わって見えるだのと盛り上がっているが、使えれば良い様に感じる俺は"どれも一緒じゃねーか…"と声には出せず、2人のやりとりを静かに傍観していた。

それにしても本当に仲良く携帯を見ている、あかねとおふくろ。
これなら将来は安心だな……。
よく嫁姑問題だなんて、昼番組で面白おかしくやってるけどそんな問題無用だな。
ん!?
……って俺なんの心配してんだ!?
ご、ごほん。



俺がそんなこと考えているとは知らず、あかねはひとつの携帯に見入っていた。
「かわいいーーー…」
「あら、あかねちゃん、それ気に入ったのかしら?」
おふくろはあかねに近づくと一緒に見始めた。
散々二人で機能がどーのこーのと議論した後、
「おばさまにはやっぱりこの色がいいと思いますよ!」
ふいにあかねがそう言うと、おふくろはキョトンとした。
「あらやだ。私、言ってなかったかしら。」
「え?何をですか?」
おふくろの言葉に今度はあかねがキョトンとした。
ちなみに俺はまったくの蚊帳の外で二人の顔を見てキョトンとしていた。



「いらっしゃいませ!ご家族で携帯お探しですか?」
あかねとおふくろが二人で顔をキョトンとさせているところに、店員が近付いて来た。
「えぇ。」
おふくろはそう返事をすると、俺とあかねを見ながらにっこり微笑み、言葉を続けた。
「二人に携帯をプレゼントしようと思って。」
その言葉に俺とあかねは顔を見合わせた。

は!?

「えっ!!何の話だ!?」
「あたしと乱馬の携帯って……」
何も聞いていなかった俺とあかね。
てっきりおふくろの携帯だと……。
「乱馬はすぐにどこかいなくなるでしょ?だからあかねちゃんとの連絡用に持ったらいいと思って。」
そう言うとおふくろはうふふと笑った。
「え゛っ!なっ何だよそれーーっ!」
「お、おばさま!?」
「照れなくて良いのよ。ねっ恋人同士の二人で持って頂戴。」
「恋人同士って……べ、別に俺たちそんなんじゃねーぞっ!」
「そ、そうですよ!」
「やぁね。隠してもムダよ?時間の問題でしょ。」
た、確かに最近あかねとはいい雰囲気だが……
ってそう言う問題じゃねーーっ!
そんなやりとりをしていると、すかさず店員も入ってきた。
「なるほど!微妙な感じなんですね?じゃ尚更、携帯で密に連絡を取って頂かなくちゃね!」
「でしょ?でしょー?」
何だっ、その「微妙な感じ」って!!余計なお世話だっ!!
しかしそんな俺の思いを余所に店員は乗り気で話始める。
「じゃぁそんなお二人の為に、このカップル限定のお揃い携帯はどうですか?」
「あら、可愛い。ほら、見てあかねちゃん!」
「え!?あの……は、はい…。」
「乱馬も見なさい。」
「え……。」
さからえない俺と…あかねは、店員から携帯の説明を受けはじめた。
「よくかける人の番号の登録をすると、安くなりますし、メールを良く打つと二人だけの特別なキャラが生まれたりして、楽しいですよ?」
「二人だけの特別だなんて、素敵ねぇ!」
おふくろはうっとりと話を聞いている。
「そうなんです、だからこれ、カップルに人気ありますよ!これで新密度アップ間違いないですね!」
「まぁ!!今よりも仲良くなるなんてどうしましょ?」
「あらお母様ったら、そんなにお二人は仲良しなんですか?」
そういうと当の二人を置き去りにしたまま、おふくろも店員も盛り上がっていた。
もちろん俺もあかねも否定できず、またそんな会話に参加できるはずもなく……真っ赤になったまま黙っていた。



おふくろがこの携帯に興味を持ったのがわかると店員はテーブルに促し、更に色々な話をした。
あかねはへーってイチイチ感心しており、おふくろもわかっている様だったが、"あぷり"だの"ぱけっと"だの俺には意味不明な言葉ばかりで混乱する。
一通り機能を聞いたがやっぱり俺にはさっぱり。
「じゃぁこれにしましょうか?乱馬、あかねちゃん。」
「えっ!?ちょっちょっと待てよ!お、俺、持っても使えねーぞ…多分。」
機能の説明を半分も理解できなかった俺には使いこなすのは無理。
「大丈夫よ。使い方ならあかねちゃんに聞けばいいじゃない。」
「そ、そう言う問題じゃねーよ…そうだっ。あかねだけ持てばいいじゃねーか?な?」
常に居場所を干渉される様な気がする気がして、連絡取り易いから持てという友人の言うことには耳を貸さずにいたのに、今更持つ気も無い。
携帯を必要だと思っていない俺には無駄な負担が増える。
ただ楽しそうにしていたあかねだったら持つだろうと勧めた。
しかし思っても見ない言葉が出た。

「……お、おばさま、あたしもやっぱり…。」
感心しながら楽しそうに携帯を眺めていたくせに、急に複雑そうな表情をしてそう言うあかね。おふくろも同じようなことを感じたようだった。
「え?どうして?楽しそうに見てたじゃない?」
「でも……」
「あ…もしかして、あかねちゃん、迷惑?」
そのおふくろの言葉に、あかねは慌てて言葉を繋げる。
「迷惑だなんて…あたしスゴク嬉しいです。でもこんな高価な物…」
「やぁね。プレゼントさせて頂戴。二人とも全然私に甘えてくれないんだから、たまにはいいでしょ?」
「だ、だから俺はいらねーって…」
そう言うが、俺の言葉はかき消される。
「お二人ともこんなにお母様に想われて幸せですよ!お母様公認の仲なんですから、甘えちゃいましょうよ!」
「でも…。」
持つ持たないのやりとりに、どうしたら良いのか困ったという様子の表情であかねは俺の方をちらりと見た。

あかねは何をいったい躊躇っているのか?
おめーだけ持てば…もう一度そう言おうとして思った。

……あ、そうか……。これってやっぱ……もしかしなくても俺のせいか。

おめーだけ持てば……
そんなこと俺に言われても、"息子"の俺が持たなくちゃ、あかねだって持ちにくいのかもしれない。
でもめんどくせーしな…それに間違いなく携帯で更なる騒動が起きそうな気がする。

そう思いつつも、でもふとあかねのさっきの楽しそうな表情が浮かんだ。
あんな表情してたらなぁ…やっぱ……

「あかね、遠慮するなよ!俺もどーせ持つんだから!」
そう思った瞬間、俺の口は開いていた。
「おふくろが折角言ってくれてるんだしな。」
「えっ!?」
その言葉にあかねが驚いた表情を見せた。
「まぁ決断してくれたのね、乱馬!あかねちゃん、乱馬もそう言うんだからいいじゃない!」
「だな。大体おめーが持たなきゃ誰が教えてくれんだよ。」
戸惑っているあかねに向かって俺がそう後押しをしてみると、その言葉にあかねは心なしか嬉しそうな表情をしたように見えた。
「うん。…じゃーおばさま、お言葉に甘えて良いですか?」
「きゃぁ、嬉しいわあかねちゃん。じゃ、決まりね!」
「ありがとうございます。おばさま!」
「さんきゅー。」
こうして俺とあかねは携帯を持つようになった。


「ありがとうございましたーーー!判らなければカップルでいつでも聞きに来て下さいね!」
「あら、良かったわね二人とも。」
「「あ…あはは」」
携帯を購入後、店員にからかわれながら俺たちは見送られた。




帰ってすぐ、あかねと二人、居間で携帯を広げた。
余りにも分厚い説明書を2冊見た瞬間、いきなりやる気をなくした。
マジでめんどくせーーーーっ!
こんな小さな機械の説明にこれだけのページ数がいるのかは疑問だ。
俺と違って楽しげなあかねは、さっさと読み終えるとメールの練習をしようと言い出した。
しかし……

「……あれ?アドレスの登録って…」
「……あれ?何でこんな風に!?」

根っから不器用なあかねは、意味が判っても操作がイマイチヘタだった。

「ったく、おめーはなにやらせても不器用だな…」
このままでは一緒に練習するはずの俺の相手になりそうにない。
俺の番号やアドレスを登録するという、いきなり初歩であろう所でこけていた。
「うるさいわね!ちょっと慣れてないだけでしょ!あんたこそ意味判ってんの!?」
「判るかっ!…ったく、しばらくは特訓が必要だな。ちょっとよこせ!」
「なっ!」
俺はあかねから携帯を取り上げると、さっきよりも必死で本を見ながら、俺の番号を登録した。
「これでよしっ。俺の方が判るじゃねーか。」
「失礼ね!ちょっと間違っただけ…」
そう言ってあかねは止まった。
俺は名前だけ登録したあかねのぱーそなるデータを開いて渡す。
「何だよ…?俺の登録したからちゃんとおめーのも入れろよ。」
「う、うん。あの……でもいいの?」
「あ?何が?」
「…ううん。何もない。」
何がいいのか問われたのかわからねーが、不器用そうに指を動かしあかねは登録を完了させた。
「はい。練習よろしくね乱馬。」
「お、おう。」
こうして俺たちは携帯に慣れるために、これから毎日一緒に練習することとなった。






翌日、学校へ行って、不可抗力で携帯をひろしや大介の前にさらすことになってしまった。
しばらくは黙っていようと思っていたのに、即効ばれてしまい、まだ慣れていない俺に代わってという名目で、アドレス登録を勝手にされてしまった。

そこであかねが「いいの?」と言った意味が判った。


「番号登録、やっぱあかねのが一番なんだな。」
「こらっ何勝手に見てんだ!」
俺がそう言うと、大介もひろしも顔を見合わせため息をついた。
「家とかじゃねー辺りが、さすが彼女持ちはちげーな!」
「は……?」


俺も…もちろんあかねの携帯も登録番号が一番最初なのだ。
一番に誰を登録するか…そこがポイントらしく、そんなことで一日中ネタにされる俺たちなのであった。





しょーがねーだろーが!!
一緒に買いに行かされて、昨日から一緒に練習始めたんだ!
そう心で叫んだ後に思った。


あかねのヤツ…知っててそのまま登録してくれたんだな。
そう思うと嬉しくなってしまった。
そしてこれから毎晩一緒に練習……。
………結構贅沢な環境にも満足なのであった。


昔はそうだったのよね。今は別に…(笑
  キャラのヤツって、これも昔、同じ機種同士で
  アニメを送りあう回数を重ねるとどんどんアニメの種類が増えるという
  携帯があったのです。これ、結構特別っぽくて気に入っておりました。
  周りがあんまり持っていなかっただけに……。
2003.12.8