災厄の日(未編集)…メール本文まま…作文担当一之瀬部分
「いってきまーす。」
乱馬は大慌てで、茶の間を飛び出した。
「あらっ?乱馬くん、まだ春休みなのに、学校?」
二階から眠そうに降りてきたなびきが問い掛けた。
「ああっ、登校日なんだ!」
「ふーん。あかねは?一緒にいかないの?」
「なんだか知らねーけど、男子だけ、登校日にしやがったんだ。校長の奴!!」
乱馬は不機嫌そうに答えた。
「そうね、一応「男」だもんね、乱馬はっ。」
なびきの後ろからあかねが顔をのぞかせた。
「…ったくー、あかねみてえに、男みたいなバカ力の女もいるのによー。不公平だぜッ。」
乱馬は吐き捨てるように言った。
「何ですってぇーっ?」
あかねが食って掛かろうとすると、
「おー―ット。こうしちゃあいらんねえっ。遅刻するぜーっ。」
玄関の戸をがらがらっと開けると、乱馬は勢い良く、朝の光の中に飛び出して行った。
「まだ、春休みっだってぇのによっ。何だって、男だけ呼び出されなきゃあいけねえんだよっ。」
乱馬は塀の上を駆けながら、ふつぶつ文句を言っていた。
明日の入学式の準備とやらで、3年生の男子だけが登校日にされてしまったのだった。
勿論、そう決めたのは、あの、黒光りグラサンのお目出度い校長だ。
「あーっ、かったりぃーっ。」
昨日、あかねとフジミに行った、気疲れがまだ残っているのか、すっきり目覚めていない乱馬だった。
「はあっ。思ったより、遠かったかな…。」
男は、地図を片手に風林館高校に向かって歩いていた。
薄いベージュのスーツに赤茶系のネクタイ。卒のないリクルートスタイルの守村だった。
「圭、ちゃんと、ベットで寝ているかな…。」
守村は、今朝の桐ノ院の様子が、少し熱っぽかったのを、気にしていた。
圭は守村の教員採用面接に着いて行くと言い張って、ダダッ子のように粘ったのだが、昼から大事なオケの練習があるのと、体調がおかしいのとで、守村は珍しく頑なに押し留めたのだった。
体調の悪い圭をひとり家に残してくるのは忍びなかった守村だったが、せっかく舞い込んできた臨時教員の話をみすみす逃すのも、惜しいと思った。
守村にしては、きっぱりとした態度を圭にとって来たのだったが、心は裏腹に、気になって仕様がなかった。
「ええっと、次の角を曲がってっと…あ、あった、あれかあ。風林館高校っていうのは。」
…不良校だったらどうしよう…。
そんな考えが浮かんでいた守村だった。
ズキン…そう考えると、神経の細い守村の消化器、「胃」が痛み始めた。
少し立ち止まって、学校の風景と、足を急がせて入っていく生徒を見回した。 校門を入って行く、男子生徒たちを見て、ちょっとだけ安堵した。ごく普通の何の変哲もない高校生たちばかりだったからだ。
「あれっ?男の子ばかりだなあ。確か、共学だって聞いてタンだけど…。まっいいや。」
守村は、スーツの衿を正しながら、ちょっと背筋を伸ばした。
その時、背後を疾風の如く駆け抜けて行った人影があった。
青いチャイナ服を着ている少年。
「あれっ?」
守村が、そう思った時、少年も守村に気付いたのか、立ち止まって振りかえった。
「やーっぱり、守村さんだっ。」
「乱馬くん…?。」
「何してんだ?こんなとこで。」
乱馬が不思議そうに尋ねると、
「あ、僕…。就職試験て言うのかな、臨時雇いの教員の面接に来たんだよ。」
「へぇーっ、風林館高校にかあっ?。」
「そう。で、乱馬くんはどうしてここに?」
「俺、ここの学校の生徒なんだ。」
「えーっ?ホントに?」
「ああっ、あかねもそうなんだぜっ。でも、守村さんが、うちの学校の教師やるなんて…。」
「まだ、正式に決まった訳じゃあないよ。これから面接があるんだからね。」
「ふーん。よりによって、こんな学校の教員にならなくっても…。」
「それより、一人?彼女は?」
「あかねは家だよ。今日は男だけ登校日なんだ。明日の入学式の準備に借り出されたんだ。」
「そっかー、乱馬くん、男だもんね。」
乱馬が変身体質である事を思い出して、守村はくすっと笑った。
「あーっ、ひっでー、女に変身できたって、俺は男なんだぜっ。」
そこに、始業ベルが鳴った。
「おーーと、いけねえっ。遅刻しちまう。じゃあなっ、守村さんっ。面接がんばれよっ。」
そう言い残すと、乱馬は校舎へと駆けて行ってしまった。
「乱馬くんとあかねちゃんの通う学校か…。」
守村は、百人力を得たように、安堵した。見知らぬ世界に飛び込む時の不安が少し解消されたのだった。「胃」も少し軽くなったような気がした。
乱馬達が体育館で、入学式の準備にかかり始めた頃、守村は職員室と書かれたドアの前に立っていた。
普通、こういった面接は校長室を尋ねるのだろうが、事務室や職員室が並ぶ廊下には校長室が見あたらなったのだ。が、別に変だとは思わなかった。
職員室と続きになっている学校もあるな、そう、思って、まず、職員室のドアを叩いた守村だった。
ドアを軽くノックして、引き戸を開けて中へ入ると、職員達は出払っていて、一人、中年の剥げかかった男性教員が残っているだけだった。
「あ、あのぉー。」
気弱げに辺りを見回して、守村は、その教師に声をかけた。
「臨時教員の採用面接に来ました守村と申しますが…。こ。校長先生は、どちらにいらっしゃいますでしょうか…。」
守村の問いかけに、剥げ教師は答えた。
「もしかして、音楽を担当される?」
「あ、はい。」
剥げ教員は守村をまざまざ見つめると、
「校長から、これを預かっております。お越しになったら渡してくれと…。」
そう言って、一通の茶封筒を守村に手渡した。
「中を確認していただいたら、そこにかかれてあるとおりにしたがってくださいと校長が申しておりました。」
剥げ教員にそう促がされるまま、守村は茶封筒を開けた。
中には、便箋が一枚、入っていた。そして、こう書き記されていた。
『DEAR Mr.守村
YOUの面接は今日の午前10時半から、ヘッドマスタールームにて行います。
それまでに、MEのいるヘッドマスタールーム(校長室)を見つけ出してください。
時間内に、探し出せたら、YOUを採用シマス。
GOOD LUCK!!
風林館高校 ヘッドマスター・九能★』
「な、なんだー?これはぁっ。」
守村は書面に目を通して、絶句してしまった。
「校長室を時間内に探し当てたら、採用…。」
…そ、そんな、無茶苦茶なぁ。
放心している守村を、気の毒そうに覗き込んで、茶封筒を手渡した教師が言った。
「校長、昨日から楽しみにしていたようですよ。頑張って、時間内に、是非、校長室を見つけ出してください。」
…頑張ってって言われても…。
守村の困惑ぶりはすごかった。
こんな教員採用試験は初めてだった。いや、他にあるまいっ!絶対に。
今、8時半を少し回ったところだから、10時半まであと二時間足らず。果たして、校長室を見つけ出せるのか。
とりあえず、職員室を出て、片っ端から校舎を歩いて見ることにした。
もちろん、何処にも「校長室」と書かれたルームプレートは見当たらなかった。
多分、そんなに容易に見つけ出せる所にはないのだろう。
…勘弁してくれよー。
守村は途方に暮れ始めていた。
…ただ、臨時教員採用の面接に来ただけなのに、この扱いは一体…。
悲しいかな、常識人の守村は、風林館高校の校長の人並みを外れまくった性格を、まだ知る由がなかったのだった。
つづく…
いかがでしたか?
のっけから、苦労してます。悠季くん。
題して「校長室を探せっ!」。
さて、無事に見つかって採用に至るのでしょうか?
あの変態校長のことだし、おまけに乱馬くんも校内に居るし…。
嵐の予感が…。
さて、問題です。校長室は何処にあるのでしょう?
予想して、次の展開を待っていてください。では。
守村は、困り果てていた。何処をどう見回しても、「校長室」は見当たらなかったからだ。
臨時教員採用試験を何校か受けて来た守村だったが、当然、こんな事は初めてだった。
守村が校長のメッセージを手に溜息をついて立ち止まっていると、教員達が何人か前方から歩いて来のが見えた。
教員達はリクルート姿の守村を見て、何か思うところがあったのだろう。その中の一人が守村に話し掛てきた。
「あのォ、ひょっとして、臨時教員の採用試験を受けに来られた方ですか?」
見るからに人の良さそうな中年の男性教員だった。
「あ、は、はいっ。」
守村はもじもじしながら答えた。
「そうですか。大変ですネエ…。」
男性教員は気の毒そうにまじまじと守村を見詰めた。
「昨日なんて、プールの中にあったんですよ。校長室。」
「はあっ?」
守村は、素っ頓狂な声をあげた。
「一昨日なんか、家庭科室の屋根裏部屋でしたなあ…。」
後ろから別の男性教員が答えた。
「体育倉庫の床下なんていうのもありましたね。」
「そうそう、体育館のステージの奈落の底っていうのも…。」
口々に教員たちは言ってのけた。
「……。」
守村がそれを聞きながら、絶句していると
「あなたで、七人目なんですよ。この採用試験にチャレンジしている犠牲者は…。」
「えっ?」
予想外の言葉に、一瞬守村は、頭がくらくらするのを覚えた。
確かに、これまで受けてきた採用試験は、臨時雇いとはいえ、数倍、数十倍の倍率であった。それほど音楽教員のなり手は巷に溢れかえっていた。一人も対抗馬のいない、風林館高校の方が不自然と言えば不自然だった。
「毎日のように、一人ずつ校長室を探させて、遊んでいるんですよ、ここの校長は…。」
すると、最後尾から、顔色の蒼白い、今にも倒れそうな中肉中背の中年男性教員が弱々しく話し掛けた。
「早く、私の後釜が見つからないと、私、欠勤できないんです…。病院に入れないんです…。」
今にも泣きそうになりながら、その教員は細腕で守村の右腕を掴んだ。
「とにかく、あなたでいいっ。早く校長室を見つけ出して、私に、私に安寧な休息をくださいっ、お、お願いしますっ。」
そう言うと蒼白い顔の教員は、その場にぱったりと倒れ込んだ。
「ひ、日和見先生っ!!」
傍にいたがっしりとした体格のジャージの体育会系の男性教員がその教員を抱きかかえた。
「おいっ、誰か、救急車をよん来いっ。」
「保健教師を呼んでー。」
守村の目の前に、信じられないような光景が広がり始めた。
「と、とにかく、君っ、私達は立場上協力できないが、幸い今日は男子生徒達が登校してきている。彼らに協力してもらって、一時も早く校長室を見つけてくれたまえ。」
「あ、は、はいっ。わかりましたあっ。」
守村は自分も卒倒しそうになるのを堪えながら、慌てて返事をすると、その場から一目散に立ち去った。
「な、なんて、学校なんだ…ここは…。」
守村はドキドキしながら廊下を小走りに歩いていた。
「生徒に協力をって言ったって…。」
そこまで考えて、ふと守村は立ち止まった。
「そ、そうだ、乱馬くん!!」
守村はさっき校門で乱馬に出会ったことを思い出した。
地獄に仏とはまさにこの事を言うのだろう。
「彼なら、協力してくれるっ!!」
一筋の光を見い出した守村は、とりあえず乱馬を探すことにした。
…確か、入学式の準備に借り出されたって言ってたから、きっと、講堂か体育館だ!」
少し、希望が湧いてきた守村は、校舎を見回して、それらしき建物を探した。
体育館らしき建物を見つけ出すと、まっしぐらにそこ向かって早足で歩き出した。
学生服に混じって、何故か一人だけチャイナ服を着ている乱馬は、有り難い事に、守村にもとっても見つけ易い存在だった。
乱馬は案の定、体育館にいた。身軽にそこここを動きまわっているのが、守村にも一目瞭然だった。
「乱馬く―――ん。」
守村は乱馬に向かって、ありったけの声を張り上げた。
体育館中に響きわたったその声に反応して、乱馬は振り向いた。
二階の窓の幕に飾り付けをしていた乱馬は、守村の姿を認めると、手を止めた。そして、殆ど同時に、ふわっと身体が宙に浮いた。
5メートルもあろうかという高さなど、乱馬にはさほど問題ではないようだった。一瞬焦った守村の視線など気にも留めない早さで、いとも簡単に飛び降りて床に着地した。
「なんだよ。守村さん、血相変えちゃって。何かあったのか?」
そう言って傍らに立った乱馬に、守村は茶封筒を見せて、事の仔細を説明した。
乱馬は、腕組しながら守村の話しを聞き入っていた。そして、守村が一気に話し終えると、
「たくーっ!何考えてやがんだぁっ?あの、変態校長はっ。一般人の守村さんになんてことしやがる。」
乱馬ははき捨てるように言い放った。
守村と乱馬のやり取りに興味を抱いたのか、いつの間にか回りは男子生徒たちのギャラリーができていた。
「おーしっ。校長がその気なら、俺たちも協力してやるよ。なあ、みんなっ!!」
乱馬がそう言うと
「そうだな、作業もあらかた終わったし。」
「面白そうだな。」
「校長に一泡ふかしてやりてえよな。」
「そーだ、そーだ。」
乱馬の同級生達は彼に同調した。
「よーし、じゃあ決まりだっ。みんなで手分けして探し出そうぜ、校長室をな。」
「えいえい、オー」
乱馬達は一斉に時の声をあげた。
その様子を覗いていた者が一人いた。
そう、九能校長だ。
校長は隠しカメラとマイクで、守村の一部始終を見張っていたのだ。
「おー、ミスタ守村は早乙女乱馬の知り合いだったのですか…最悪的状況ね。そっちがその気なら、こっちも考えがありまーす。見てらっしゃい。」
校長のサングラスがキラリと光った。
「HAHAHAHA、フォーメーションワン・プリーズ。」
校長は何やら怪しげな機械のスイッチを押した。
「アクション・スタートね。」
乱馬達は手早く各人の担当場所を決めた。
「さ、守村さんは俺と組んで、早速探そうぜ。校長室なんか、すぐに見つけ出してやるぜ。」
「ありがとう、乱馬くん、みなさん。」
守村は乱馬に感謝した。乱馬のおかげで、なんとかなるのではないかと思えたからだ。
「行くぜ、みんな。」
乱馬の掛け声に、大捜索隊は一斉に体育館を飛び出して行った。
守村も乱馬と一緒に、体育館から表に出た。
「うへっ、な、なんだこりゃー?」
乱馬は外の異変に声を上げた。
「な、何。」
守村も声を張り上げてしまった。
そう、そこら中に「校長室」と書かれたプレートが出現しているのだ。
校舎の窓、床、教室のドア、天井、階段、廊下…「校長室」プレートはここでもかと言わんばかりに張り巡らされていた。
「さっきまで、こんなプレート何処にも無かったよ…。」
守村は困惑して乱馬に問い掛けた。
「チッキショー。校長の奴、俺たちのこと覗いてやがったな。撹乱作戦か…おもしれえ、そっちがその気なら。」
乱馬は、戸惑っていた生徒たちに大声で指示した。
「よーし、みんなぁっ。片っ端からプレートはがしてチェックするんだ。最後に残ったところが校長室だぜ、わかったか?」
「おー。」「おー。」「おー。」
そこここで返事が返って来た。
「じゃあ、散れ―っ。くれぐれも気を抜くなよ。相手はあの変態校長だかんな。」
クモの子を散らすように、校長室捜索隊はそれぞれの持ち場に散って行った。
…乱馬くんを味方につけたのは正解だったなあ…
乱馬の統率力に守村は感動していた。
そのころ、校長室では。
「HAHAHAHA、まだまだこれからですよ。乱馬・早乙女。」
そう言って、また怪しげなスイッチを捻った。
「フォーメーション・ツー・プリーズ。スタート。」
片っ端から、プレートをはがしながら、校長室を探し始めた乱馬達は、いきなり苦難にぶつかった。
そう、プレートをはがしたとたん、
どっか――ん、どっか―ン。
爆音をたてて、小爆発が起こるのだった。
これこそ、校長のフォーメーション・ツーだった。
「ちくしょー、コホッ、校長の奴・・・コホコホッ。爆弾まで持ち出しやがってぇー。こうなったら意地でも探し出して、一発殴ってやるぜっ。」
乱馬は爆発で燻りつつも、そうはき捨てるように言った。
乱馬だけではなく、彼の同級生達もまた、「校長を見つけ出して殴る…」という目標を見出していた。さすがに風林館男児であった。
校長の作戦はひるむどころか、乱馬たちの闘争心をかきたてる結果になってしまったのだった。
こうして、校長室の大捜索は幕を明けた。
そのころ、校門では、もう一人、招かれざる客が門をくぐり抜けようと立ち止まっていた。
「ふーん、こざっぱりとした学校だな。」
ジーンズにトレーナーという軽装のその人物は…フジミのチェリスト、五十嵐だった。
彼は、桐ノ院に守村の引率(護衛?)を急遽、依頼されたのだった。
桐ノ院が、自分なんかを守村の引率に選んだのか、真意の程は分らなかった。が、元来の好奇心の塊は、桐ノ院の風邪気味のしわがれ声の電話での依頼を快く引き受けたのである。本来なら、桐ノ院自身が引率したかったのだろうが、ままならならない。そんな苦悩が充分、電話の向こう側から伝わってきた。
守村さんにくっついて、風林館高校を見学するも良し、その後立ち寄るはずの天道道場にも、おおいに興味があった五十嵐だった。
そして、守村からは少し遅れたものの、五十嵐青年は風林館高校にやって来たのだった。
どっかーん、どかーん
はからずしも、爆音のような音響が、校舎からこだましていた。
「何の音だろう?」
五十嵐の好奇は、ますますかきたてられた。
「とにかく、守村さんを捜さなくちゃ。」
校内に足を踏み入れて、五十嵐は驚いた。
いたるところに「校長室」のプレートが掲げられ、男子生徒たちがそこいら中で、声を上げながら、爆音とともに悲鳴を上げていたからだ。とても尋常の沙汰とは思えなかった。
「あのー、何やってんです?」
伸び掛けていた生徒の一人に五十嵐はチェックを入れた。
「校長室を捜してるんです。」
生徒は埃まみれになりながら答えた。
「そりゃまたなんで?」
五十嵐の疑問に生徒は悪びれずに答えた。
「新任の先生の為に、見つけ出してあげているんです。時間内に見つけ出さないと面接が受けられないそうで…。」
「新任の先生って…、そっか守村さんのことだな。」
勘のいい五十嵐はピンときた。
それにしても、この校内の荒れ様は一体…。
「校長の嫌がらせですよ。生徒の嫌がる事ばかり企むんです。ケホっ。」
もう一人の生徒が五十嵐に答えた。
「ふーん、で、その新任の先生とやらは何処にいるんです?私、その人の引率頼まれてここまでやって来たんですけど。」
五十嵐が問い掛けると、
「その人なら、乱馬と一緒に捜してますよ。」
「らんま?」
「ええ、早乙女乱馬君。赤いチャイナ服着てるからきっとすぐ見つけられますよ。多分、あそこの本館の1階あたりを捜してるはずですから。」
そう言って、男子生徒は時計のある校舎を指差して見せた。
「赤いチャイナ服ネエ…。昨日会った乱子ちゃんみたいだなあ…。ま、いいや、ありがとう。行ってみるよ。」
五十嵐はペコンと頭を下げて、言われた校舎に歩いて行った。
「あ、くれぐれも気をつけてくださいね。威力は無いですけど、そこいら中爆弾だらけになってますから…。」
男子生徒は後ろから声をかけてくれた。
後ろでに手を振って、五十嵐は先を急いだ。
「赤いチャイナ服の男の子っと。」
本館らしい校舎に入ると五十嵐は乱馬という男の子を捜し始めた。
「あ、いた。ホントだ、守村さんが一緒にいる…。」
乱馬と守村はペアで一所懸命、校長室を捜していた。
「校長の野郎、よっぽど娯楽に飢えてやがんな〜。ケホッ。」
砂煙を上げながら、乱馬はメゲズに校長室プレートと格闘していた。
「ちぇっ、埒が明かねえや。守村さん、ちょっと離れててくれ。」
そう言うと乱馬は、ひとつはあーっと息を吸い込んだ。
そして、
「火中点心甘栗拳!でやーっ。」
目も止まらぬ速さで、両手の拳を繰り出し始めた。そして校長室プレートを一気に粉砕してゆく。おまけに、爆発からも器用に身を反らせてかわしていた。
「す、すごい…。」
守村も、少し離れて見ていた五十嵐も、その乱馬の技に見とれてしまった。
廊下のプレートを一つ残らず、一気に叩き割った乱馬だが、結局本物らしきものは一つも見当たらなかった。
「ここにもねえか。やっぱり。」
呼吸一つ乱さずに、全部を叩き割った乱馬だった。
パチパチパチパチ…。
「いやあ、お見事、凄いな〜きみっ。」
思わず、五十嵐は拍手喝采を乱馬に送っていた。
「五十嵐君、どうしてここに!?」
守村は意外な拍手の主に、驚きを隠せずに言い放った。
乱馬もギョッとした。
…確かこいつ昨日、フジミでいた野郎だな。
「はじめまして。僕は五十嵐です。この守村さんのお守を頼まれてここまで来たんだ。よろしくね、乱馬君。」
「……。」
乱馬は絶句した。
…こいつなんで俺の名を知ってやがんだ?まさか俺の正体に…。
「ああ、さっきそこできみの名を聴いたんだよ。えっと早乙女乱馬君だっけ。」
「あ、ああ。は、はじめまして。五十嵐さん。」
乱馬は焦りながらも答えた。
「物覚えがいいね、きみ。もう、僕の名前覚えてくれたんだ。よろしくね。」
「あ、あははは…。」
乱馬は冷や汗が流れて行くのを感じていた。昨日会ったなんて、口が裂けても言えないからだ。
となりで、守村もドギマギしていた。
「すごいなー。格闘か何かやってるの?きみ?」
「え、まあ、その〜。」
「こう見えても一角の格闘家なんだよね、乱馬君は。」
守村がぎこちなくフォローに回る。
「無差別格闘、早乙女流の2代目ですから。」
「無差別格闘?って確か昨日来たあかねちゃんや乱子ちゃんもそんな流派だったよね。きみ、乱子ちゃんに似てるなあ。ご兄妹か何か?あんがい双子だったりして。」
似ていて当たり前だ、乱子と乱馬は同一人物だから。
他意は無いのだろうが、五十嵐はとても鋭かった。
「そ、そうかなあ…乱子ちゃんに似てるかなあ…。」
守村も乱馬も引き攣っていた。
「で、守村さん随分親しそうだけど、知り合いだったの?乱馬君と。」
「い、いや、さっき会ったばっかり。ね、乱馬君。」
「そ、そうなんです。気があっちゃって俺たち…あははは…。」
「ふーん。」
なんだか臭いと五十嵐は思った。
と、そこへ大介とひろしが来た。
「お〜い、乱馬っ、校長室何処にも無いぞっ。」
「こっちもだ。もう、へとへとだぜ、俺たち。」
そこここから生徒たちが集まって来た。
みんなに助けられた形になって、五十嵐との会話が途切れた。
「ウーン、あと、捜してないのは、物理的に行けないところくらいだよな〜。」
「物理的に行けないって、異次元空間か何かかよ?」
「ウンにゃ。男の俺たちには行けネエってところ…。」
「例えば、女子便所とか、女子更衣室。」
「覗けねえもんな。」
「あ〜でも、案外それってビンゴかもよ。」
「校長のやりそうな事だからな…。」
「今日、部活やる予定のところってあったか?」
「ン――と、女子テニス部だ。あそこだけだぜ。確か10時半からって言ってたよな。」
そんな会話が進んで行った。
「10時半ってタイムリミットじゃあ、なかったけ、守村さん。」
乱馬が問い掛けると、
「そうです。」
『………』
「あと何分だ?」
「エー―っと、15分」
「じゃあ、今ごろは更衣室…。」
「女子部員で満杯の頃だな。」
「きっと、そこだ、校長室。」
「変態校長の考え付きそうな事だな…。」
「でも、どうやって潜入するんだよ。痴漢扱いだぜ、浸入ナンカしたら…。」
一同が沈黙した時、乱馬はイヤな視線を満杯に受けた。
「乱馬、守村さんに臨時教師来て欲しいよな…。」
「あ、ああ。」
「で、校長も殴りたいよな。」
「勿論…。」
「じゃあ、方法は…。」
皆の視線が乱馬に集中した。
「今日は許婚の天道あかねもいねえしな。」
「んだ、大丈夫、あかねには黙っててやるよ。人助けだし。」
「許婚?天道あかね?」
五十嵐鋭く反応した。
「ああ、こいつ、この歳で将来を約束した許婚がいるんだよ。」
「天道あかねっていって、こいつがくるまで皆のマドンナだったかわいい娘なんだ。」
「なあ、乱馬っ!」
「あかねちゃんて天道道場の?」
どさくさに紛れて、五十嵐は訊いている。
「そうだよ。」
「ふ―ん、あかねちゃんの許婚ねえ。乱馬君が。
五十嵐はにやにやしながら反復した。
「そ、そんなことどうでもいいだろっ。あかねが俺のなんだろうと。」
乱馬は真っ赤になっていた。
「ほれ、お前が行くしかネエよな、乱馬くん。」
大介がにじり寄る。
「おいっ、こら。それ、どう言う意味だよ…。」
乱馬は必死で抵抗する。
「こういう意味さっ。」
ばっシャっ
ひろしが後ろにあった防火用のバケツを乱馬の頭からかぶせた。
「ち、ちめてーっ!!」
万事休す!
乱馬は女に変身してしまった。
「エー――っ。き、きみは。乱子ちゃん。」
五十嵐が驚いたのも言うまでもない。口を開けたまま立ち尽くした。
「あーあ、ばれちゃったか、五十嵐くん、これ、ナイショだよ。フジミの皆には。もちろん圭にも。」
「てことは、守村さん知ってたの?」
「うん、偶然ね。乱馬君があかねちゃんの許婚で、女に変身する事ができる男の子だってことは、ここだけの秘密にしておいて欲しいんだ。」
「OK。なんか訳ありみたいだから、見なかった事にしておくよ。」
五十嵐はあっさり承諾した。黙っておいた方が自分も楽しめるとふんだせいもある。
水浸しになったらんまを、ひろしや大介達はムリヤリ女子更衣室の前まで引っ張って行った。
さて、この先、どうなるかは大概予想がつくだろう。
「ほれ、守村さんの運命はお前次第だ、しっかりやれよ、乱馬っ。」
非情なことに、らんまはそのまま、女の子たちの気配のするそのドアの中に放り込まれてしまったのだった。
つづく…一気にここまで書きました。
久々の「オーケストラな毎日」。お楽しみ頂けたでしょうか?
夜も更けてまいりましたので、この先は次回に譲ります。
次回配本がいつになるかは未定です。忘れた頃に送信される事でしょう(笑)
以後、滞ってます…多分…フロッピーから取り出せてないからわかんないけど…。
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