春風のオーバーチュア
#2 猫ふんじゃった!(前編)
一、
入れたてのダージリンティーとお茶菓子を持って、神前となびきがリビングに戻ってみると、まだ乱馬とあかねは睨み合っていた。
「よく飽きないわねえ、あんたたち。」
なびきは二人の様子を見て、突き放すように言葉を投げ掛けた。
「とにかくっ、周りに迷惑だから、少しは遠慮なさいっ。神前さんが困ってるわよ。」
神前は、おたおたしながら、カップソーサーを並べて、ティーをポットから注ぎ込んでゆく。
「さ、さあっ、喧嘩はそのくらいにして、み、みんなで仲良く、そ、その、お茶でも、飲みましょう。」
神前は、すっかり動揺していた。さっきのなびきとのやり取りで、乱馬とあかねの関係を理解したとたん、今度は、何故だか二人を目の前にして、うろたえてしまっていたのだ。
乱馬とあかねは、声こそ荒げないが、まだそれぞれ目は睨み合っていた。神前は自分の目前で、二人の視線から発する火花が勢いよくぶつかり合っているような気がした。
一方なびきは、そんな、二人を見ても、全く動じる気配がなかった。
「あっ、このクッキー美味しいっ。あれっ、手作りね。神前さんの手作りかしら…。」
などと、話し掛けてくる。
「ええっ。夕べ作ってみたんですけど…。お口に合います?」
なびきにつられるように、神前は答えたものの、やっぱり、乱馬たちが気になって仕様がなかった。
「器用ねえ…。」
なびきは食べながら感心していた。
これほどまでに器用な男がこの世にいたのかと改めて感心する。別に趣味にしたつもりはなかったが、まかないをするうちに神前はこういう家庭的な部分が身についてしまったと言って良い。クッキングは苦にならない。掃除も嫌いではない。下宿代を節約しなければならないほど貧乏音大生だった彼の生活の糧となっていたことは確かだ。まかないをやることで、これまでこの「ムジカハウス」に身を置けたし、今もたいして事情は変わらない。
それはさておき、正直なところ、神前はこの場になびきが居てくれて、ありがたいと思っていた。
この二人の喧嘩は日常会話みたいなものと、なびきが言っていたように、傍観を決め込めれば、何のことも無いのだろうが、慣れない神前は、それが出来そうにない。放っておけと頭では納得していても、体はそれが出来なくて冷や汗ばかりが流れ落ちてくるようだった。
なびきがいなければ、どうなっていた事か。
四人のティータイムは不思議な光景だった。
睨み合っている男女一組に、醒めている女一人、そして動揺を続ける男一人。
会話は殆ど無い。
静かに時は流れて行った。
しかし、この無口なお茶の時間は、長くは続かなかった。いや、続けられなかったと言った方が正解だろうか。
四人がそれぞれの思いに、押し黙って、神前の入れたダージリンティーをすすっている時だった。
ガタタッっと奥の方で物音がした。
「あれっ、何だろう?」
神前が始めにその物音に反応した。音楽を生業としているだけあって、耳は良かった。
そして、神前が椅子から立ちあがろうとした瞬間だった。
リビングの出入口の方から、乱馬目掛けて、白っぽいふわっとした物体が飛んできた。
「えっ!?」
神前が飛んできた物体の正体を確認しようと眼鏡に手をかけたのと同時だった。
「ギエーーッ!」
と乱馬がもの凄い悲鳴を上げたのだ。
「ねっ、ねっ、ねこーっ。ねこォーっ。」
そう叫びながら、乱馬は椅子から転げ落ちた。
「ちょ、ちょっと、乱馬くん?ねっ、どうしたの?」
神前は、乱馬の取り乱しぶりに、驚いて思わず声をかけた。何がどうしてそうなったのか、彼にはさっぱり理解出来なかったのだ。
乱馬は極度の猫恐怖症なのだが、もちろんそんな事は知る由も無い神前だった。
「もう、だらしないんだからぁっ、乱馬は。」
あかねは落ち着き払って、飲み掛けていたティーカップをソーサーの上に置くと、乱馬にまとわりついている白っぽい物体を追い立てにかかった。そこで、ようやく近眼の神前は、白い物体が丸くてふっくらとした猫である事を認識した。
乱馬は床にしゃがみ込み、顔面蒼白になって小刻みに震えていた。
「ほら、しゃんとしなさいよ。猫一匹でこんなに怖がる事ないでしょうっ?」
あかねが乱馬の肩に手を置いて声をかけた。
…そっか、乱馬くんは猫が苦手なんだ。
神前は二人を見て、少しだけ乱馬の身の上に何が起きたのか理解できた。
しかし、猫パニックはこれで終わりにはならなかった。
「まーだまだ、修行が足らんようじゃのう。」
フイに神前の後ろで声がした。
振りかえると、老人が高笑いしながら立っている。
「て、てめえっ。エロジジイッ。」
乱馬は、けなげにも涙声っを張り上げる。そう、老人は八宝斎だった。
「あらあっ、おじいちゃんも来てたの…。」
なびきは相変わらず顔色ひとつ変えず、落ち着き払って座ったままだった。きっと、傍観者を決めこんでいるのだろう。
「さっきの仕返しじゃいっ。」
八宝斎はそう言うと、また、新たに三つ四つ、物体を乱馬に向かって投げつけた。もちろん猫だった。
「ちょ、ちょっと、おじいちゃん。」
あかねが慌てて止めに入ったが、すでに遅かった。
「うわあっ、また、ね、ねこーっ。」
乱馬はなんとも情けのない声を張り上げる。
「あーららっ、私、知ーらないっと。」
なびきは突き放すように言ってのけた。こうなったら、とことん傍観者を決めた方がいいと判断したなびきだった。彼女の損得勘定には抜かりが無い。
「ねこ、イヤーっ。嫌ーいっ、怖ーいっ。」
乱馬は涙声で震えながら訴え続けている。
神前は、そんな乱馬のザマを見て、なんとかしてあげたいと思ったが、何をしたらいいかわからなかった。その場に固まったまま口も開けないでいたのだった。
「思い知ったか!カーカッカッカッ…。」
乱馬の醜態を見て満足したのか、高笑いを残して八宝斎は外へと消えて行った。
動けない神前と、動こうとしないなびきを尻目に、あかねはうずくまったままの乱馬の傍で、猫たちを追い立てていた。
「ねえっ、おねえちゃんっ、神前さんっ!手伝ってよっ。早くうっ。猫を追い出してよっ。でないと、乱馬が…。」
あかねは必死に二人に向かって叫んだ。
乱馬は、あかねの傍でしゃがみ込んだまま震えている。
「ねこーっ、ねこーっ。」
そう、念仏のように、口元でずっと唱え続けていた。何とも異様な光景だ。
「早くっ、お願い。乱馬が鳴き出さないうちに!」
神前はあかねが言っている言葉の意味が良くわからなかった。が、あかねの焦り方や尋常ではない乱馬の猫への怖がり方を見て、このままこの場を放置すると、とんでもない事が起きるのでは、と直感した。しかし、何をすれば良いのか、土壇場に来ても思いつかず、じっと立ち尽くしていた。
「しょうがないわねえ…。」
なびきはしぶしぶ腰を上げた。そして、窓を開けにかかった。
なびきのなりを見て、神前はようやく、自分が何をするべきか思いついた。
「わかりました。猫を追っ払えばいいんですね。」
そう言って、直ちに、窓という窓を開け放ちにかかった。
しかし、結果的にはこれがいけなかった。
周りを良く見ずに(或いは見えなかったのかもしれないが)、動いてしまったものだから、あろうことか、神前は、逃げ惑う猫の一匹のしっぽを思いっきり踏みつけてしまったのだ。不用意にも。
「フギャ―――――ッ。」
細身とはいえ、自分の体重の何倍もある神前にしっぽを踏まれてしまったのである。たまったものではない。
猫はつんざくような雄叫びをあげ、床にしゃがみ込んでいた乱馬目掛けて猛突進していったのだった。
「ああっ、ダメ―――――――っ。」とあかねが叫んだのと、「にゃ――――――――おっ!!」と乱馬が鳴いたのは、殆ど同時だった。
「ら、乱馬くん!?」
神前は乱馬の身の上に起こった、更なる変かに驚いた。そして、乱馬の傍に駆け寄ろうとした。
「だめっ、神前さんっ。乱馬に近づいちゃっ。」
あかねは力ずくで神前を止めに入った。
「えっ?」
神前は、あかねに強く引っ張られて、つい、後ろによろめいた。あかねも一緒に倒れ掛かる。
「あーあ、最悪な展開ねっ。」
なびきが投槍に言って溜め息をひとつ吐いた。
あかねは神前にしがみつきながら言った。
「神前さん。今乱馬に近づいちゃ危険よっ。ほら、見てっ。」
「!!!。」
あかねに言われるまま、視線を乱馬の方に向けて神前は絶句した。視界に入った乱馬の様子は、神前の想像を絶するものだったからだ。
「にゃ―――おっ!にゃにゃにゃおー――――んっ!」
乱馬は猫そのものの声を発し始めた。
そればかりでなく、猫そのものになりきったのか、右手も左手も丸めて、鋭い目で八宝斎が持ちこんだ猫たちを睨んでいた。乱馬は猫たちに向けて、臨戦状態に入ったのだった。
猫たちは、乱馬を見て、恐れをなしたのか、じりじりと後ずさりを始めた。
二、
間合いを詰めながら、猫たちに攻撃を仕掛ける隙を窺う乱馬は、野性に満ち溢れた雄猫そのものだった。
猫たちは前方に立ちはだかる巨大な雄猫・乱馬にすっかり怯え始めていた。
「フーッ!にゃあーおっ!」
乱馬は奇声を上げると、猫たちに飛び掛って行った。
戦意をすっかりなくしていた猫たちは、我先にと逃げ惑った。その後を乱馬は四つん這いになって追いかけ回す。
そうこうしているうちに、一匹、また一匹とさっき神前が開けた窓から外へと逃げ出していった。乱馬もそれを追いかけて、続いて外へ飛び出した。
おかげで神前の住処、ムジカハウスは崩壊せずにすんだといってもよいだろう。もし、このまま猫たちと猫モドキが部屋の中に留まって、闘いが繰り広げられていたら…。きっと、この家は土台ごとメチャクチャになっていたに違いない。
乱馬は、庭先でも猫たちを追い回し続けていた。
「良かった。外に出てくれて。これで部屋は安心ね。」
神前に重なるように床に倒れこんだあかねが、身体を起こしながら言った。
神前はあかねの言葉に我を取り戻した。そして、ゆっくりと立ち上がると、あかねに右手を差し出した。あかねは神前の右手を借りて、体制を整えながら立ち上がった。
「あの、乱馬くん、一体どうしちゃったんです?」
手を貸しながら神前はあかねに尋ねた。目の前で繰り広げられている猫バトルにすっかり気が動転していたのだ。
「あ、あれですか。乱馬ってとっても猫が嫌いなんです。」
「はあ、猫が嫌いなんですか。」
確かに、今はともかく、乱馬くん最初は異常なくらい猫を怖がっていた。
「それで…猫への恐怖心が限界を超えると、その恐怖心から逃れるために、突然切れちゃって、猫そのものになりきっちゃうんですよ、あんな風にね…。」
あかねは庭先を暴れ回る乱馬を目で追いかけながら答えた。
「はあ、猫化しちゃうわけですか。」
「ええ、猫化して、猫拳を使い始めちゃうんです。」
「はあっ?猫拳?なんですか、それ。」
「どう説明したらいいのかなあ…。その、酔拳みたいな技なんです。自らを猫化して繰り出していく恐怖の魔拳法なんです。」
「猫拳ねえ。また、どうしてそんな技を使うんです?乱馬くん。」
神前にはわからない事だらけだった。
「子供の頃、早乙女のおじ様が猫拳を習得させようと、無謀にも飢えた猫の群れの中に、何度も乱馬を放りこんでいるうちに、乱馬ったら、異常に猫を怖がるようになったらしいんです。」
神前の脳裏には、パンダ親父が乱馬を猫の大群の中に蹴り入れる構図が浮かんで消えた。
「その上、乱馬ったら、猫への恐怖心がある限界点に到達すると、いきなりプッツンしちゃうんです。」
「その、つまり、ああいう風になる訳ね。」
神前は外で暴れ回る乱馬を横目で指した。
「ええ、ああやって猫そのものになりきっちゃうんです。」
「あれが猫拳な訳ですか…。」
確かにあかねが言うとおり、乱馬は猫化して自分が猫嫌いであることすら忘れているようだった。
庭先では四足の猫乱馬が猫たちを追い回していた。乱馬はニャンニャン叫び、そこいら中の草や木を鰹節でも削るように引っ掻きまわしていた。
猫たちは庭を逃げ惑い、一匹、また一匹と塀の外へと飛び出して行った。
最後の一匹が外に出てしまうと、乱馬は庭先の桜の木の上で勝利の雄叫びを上げている。
「ホントに変な技でしょう…猫拳って。」
溜息混じりにあかねは神前に呟いた。
全くだ。水とお湯で自在に男と女が入れ替わるという体質だけでも十分不可解なのに、猫への恐怖心から逃れるために自ら猫化してしまうなんて…。神前には理解の上限を超えていた。
あかねに同調するように、そして半ば呆れて神前は言った。
「猫化した乱馬くんて無敵なんだね。ああなったら誰も太刀打ちできなくなるな。」
「一人を除いてはね…。」
後ろでなびきの声がした。
「ほんと、猫拳って迷惑な技だわ。あかね、早い事乱馬くんを元に戻したげなさいな。」
「元に戻す方法があるんですか?」
なびきの言いように神前は思わず大きな声が出た。
と、その時だった。神前と「桜の木の上の乱馬」の目が合ったのは…。
神前がはっとする間もなく、桜の大きな枝の上で、乱馬は毛を逆立てるように肩をいからせ
「フーッ。」
と、神前を威嚇し始めた。
「えっ!?」
神前は自分に突然、明らかな「敵意」を向けて始めた乱馬を見て、動揺し始めた。何が乱馬を興奮させているのか神前にはさっぱりわからなかったのだ。
「ちょ、ちょっと、神前さん。」
背後のなびきが声をかけてきた。
「それはまずいわよっ。」
「な、何がです?」
「だからぁ、ほら、神前さんの右手。」
「へっ?」
「あかねの手を握ったまんまよっ。」
「あっ!!」
さっき、あかねを起こした時からずっと、神前はあかねの手を握りっぱなしだったようだ。
どうやら、乱馬の怒りの原因は、「神前の右手」にあるようだった。
あかねを神前に盗られたとでも思ったのだだろうか。
「ねえ、神前さん。早い事離したらいいわよ。その右手。」
なびきは見兼ねて、神前に忠告を発した。
しかし、当の神前はというと、乱馬の刺すような視線にすっかり自己を失っていた。そのまま固まってしまい、握り締めた手の離し方さえおぼつかなくなったのだ。あかねの手を握り締めたまま固まってしまった神前は、もはやどうする事も出来なくなっていた。
なかなか離れない「神前の右手」に業を煮やした乱馬は、一気に桜の木から飛び降りてきた。
三、
乱馬着地すると、神前を目掛けて襲いかかってきた。
神前は焦った。固まったままでも必死で乱馬の攻撃をかわそうと試みた。
乱馬は神前の至近距離まで迫ってくる。
「乱馬っー。だめよーっ。」
神前の傍らで、あかねが叫び声を上げた。
「フーッ!」
乱馬はあかねの声に反応して、少しだけ攻撃に隙ができた。
きゃしゃな身体で運動系は殆どダメな神前だったが、さすがにヴァイオリンのエキスパート奏者。反射神経だけは並以上に持っていた。
その一瞬の隙を突いて、乱馬の攻撃からその身をかわすことが出来た。
「神前さんっ。早く手を離して、あかねから離れなくっちゃ!」
なびきが背後からまた声を掛けてきた。
「あ、はあ、手でしたね。」
神前は、すっかり動転していて、情けない事に、あかねとつながれた手一つ、すぐに離す事が出来なくなっていた。人間極限状態に置かれると、何がなんだかわからないとはよく言ったものだ。
そう、この時の神前がまさにそれだった。
たかが、手を離すのに何をぐずぐずしているのか…。焦れば焦るほど泥沼にはまり込んで行くのだ。別に他意は無いのだ。あかねが好きな訳でもない。なのに、離せないのだ。
まるで、ボンドか何かで引っ付けられているように、離れないのだ。
この体たらくを見れば、乱馬は無条件に激昂してゆくはずだ。
しかし、事態は好転するはずも無く…。
乱馬が物凄い形相で神前を睨んでいるのが目に入った。
当然の如く、次の攻撃が繰り出されてきた。
「危ないっ!」
あかねはとっさにつながれた手を自分の方へ思いっきり引っ張った。
神前はあかねの方に引き寄せられると、すぐ横を乱馬の影が過ぎって行った。
ズキッ。
神前の左手に鈍い痛みが走った。
あかねのとっさの気転も、完全に乱馬の攻撃をかわしきれた訳では無かったようだ。
痛みの元を見ると、左手の甲の部分に少しばかりのひっかき傷ができていた。血こそ流れていなかったが、ミミズのように傷がモリモリッと盛り上っていた。
しかし、おかげでどうやら、あかねとつながれていた右手が解けた。
だが、時は既に遅かった。
神前の右手があかねから離れたところで、乱馬の怒りが簡単に収まろう筈もない。猫乱馬にとって神前は「己の恋敵」以外の何者でもなかった。
攻撃は反れたが、猫乱馬は悠々と地面に降り立った。そして、四つん這いのままゆっくりと神前を振りかえる。
その眼光は鋭く神前を見つめていた。今度こそ「己の恋敵」を倒してやるとでもいうような、乱馬の叫びが聞こえてきそうな目の光であった。
…このままだと、神前さんが危ない!
あかねは思った。
理性など物の見事にぶっ飛んでいる野良猫乱馬。そんな乱馬が繰り出す攻撃に加減など出きるはずもない。
きゃしゃで細身の神前が、このまま猫乱馬に攻撃され続けたら、血を見ることは明らかだった。
…果たして、逆上して興奮している猫乱馬を止める事など出きるのであろうか…。
あかねは途方に暮れていた。
攻撃対象として乱馬から狙われることになった神前は、今の攻撃で、すっかり肝がすわってしまった。
もちろん知り合って間がない神前は、乱馬の格闘家としての実力は全く未知だった。乱馬の強さは、さすがに幼少から鍛えぬかれたものなので、人間ばなれしているのだが、勿論そんなことなど知る由もない。
でも、音楽家の勘とでもいうか、まともに張り合えるレベルではない事だけは明らかだった。
格闘のたしなみはおろか、腕力の無い神前に残されたのは、「逃げる」、その一手に徹することだった。逃げて逃げて逃げまくる…そのうちなんとかなるだろう…。そう達観した。
猫乱馬はターゲットの神前に狙いをすまし、執拗に攻撃を加えてくる。反射神経だけは人並み以上の神前は、とにかく必死でその攻撃をかわす。その繰り返しだった。
あかねは…。そんな二人を見て、思案に暮れていた。このままだといけないことはわかってはいたが、気ばかりが焦って、名案が浮かばないのだった。
一方なびきは、
「こりゃ、だめだわ。」と、傍観者を決めこんで、三人からずっと離れたところに居た。巻き込まれて怪我でもしたら大変と、自分の身の安全だけはぬかりなく確保していた。
四者四様の思案や行動が、ここムジカハウスの春先の庭で炸裂していた。
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