#3 水も滴るいい男(後編)
三、
「ジジィめっ。やっぱり神前さんのこと、女に変身するかどうか確かめていやがったなっ。」
「えっ?」
「だからさあ、神前さんが変身体質の持ち主じゃないかと勝手に思ってやがんだよ。」
「どうして、また?」
「さあ、細かい事はわかんねえけど、大方、神前さんの物腰が、女性的にみえたんだろうよっ。」
「それで、お湯びたしって訳ですかあっ?」
「だろうな。だから、この前も水をぶっかけやがったんだぜ、きっと。」
らんまの言う事には一理あった。
そうだ。確かに、天道家で、この前も、いきなりじいさんに水をぶっ掛けられたのだった。
「ったくう、しょうのねーじいさんだぜ。俺にまで水をぶっ掛けやがって。あーあ、どうすんだよ。こんなに濡らしちまって…。」
リビングの床はすっかり水浸しになっていた。
「と、とにかく、着替えましょう。幸い、乱馬くんにはこの前お借りしたチャイナ服がありますよ。」
「ありがてー。このまんまでいたら、風邪ひいちまうぜ。神前さんもきちんと着替えた方がいいぜ。俺はいつもの事だから、水をかぶるのには慣れてっからさあ、神前さん、先に着替えてきなよ。風邪ひいたら大変だぜ。今はやってる風邪って高熱が出て、性質が悪いぜ。」
「そう?」
「ああ、あかねの奴がこの間までひいてたんだけど、おかげで一晩中世話しなくちゃならなかったし…ホント、大変だったんだからなあっ。」
「一晩中って?。」
つい、口が滑ったらんまだった。
言ってから「シマッタ。」と思った。
「あ、いや、まあ、そんなことどうでもいいから、着替え着替えっと。」
「はいはい、これ以上は追求しませんよっ。着替えとタオル取ってきますから、ちょっと待ってて。」
くすくす笑いながら神前はリビングを出ていった。
らんまは守神前が立ち去ると、ずぶ濡れになった上着とズボンを無造作に脱ぎ去った。
「クッソー、ジジィめ。今度見つけたら、タダじゃおかねえぞ。」
などと、八宝斎への悪態を、ぶつくさぶつくさ唱えながら、トランクス一枚になって、びしょ濡れになった服をしぼった。
ぼとぼと、びとびと、服から滴が零れ落ちて行った。
と、その時だった。
玄関先で人の気配がした。
「ただいま…。久しぶりの我が家はいいですねえ…。」
声と共に、長身の男がズカズカとリビングに上がり込んできた。
そう、この屋の主、日向昇の帰宅だった。
「すっかり、春めいて来ましたよね。そこの公園の桜が綺麗に咲き始めましたよ。今度、散歩がてらに、見にいきましょうか……。」
「そうですね。」
傍らの女性に話し掛ける。
「神崎君っ!居ますかあ?」
日向はそこに居る筈の神前を呼んだ。が、彼の視界に入ったのは、神前ではなく、小柄な女性だった。おまけに、彼女は、上半身が裸だった。
「うわーっ!!」
普通の人間が驚かない筈がない。日向はらんまを見つけ、大声を張り上げた。
顔はみるみる強ばっていった。
「な、何ですか?き、君はっ。」
かすれた声で日向は裸体の女に尋ねた。
大概の場合、女という奴は、自分の裸体を殿方に見られよう物なら、不快極まりない金切り声を思いっきり上げてくる。そして、「イヤー―ン。」などと悶えて、大袈裟に胸を隠すのだ。
日向は、当然、目の前の女もそんな反応をするに違いないと予期した。そして、全身に力を込めて、女の悲鳴に備えたのだった。
しかし、目の前の女は悲鳴を上げるどころか、顕わに飛び出ているふくよかなバストを隠す事もしないで、平然と日向を見据えていた。そして、
「おじゃましてまーす。」
などと、言ってのけた。
普通の男なら、きっと、視線のやり場に困るのだろうが、その辺り、日向は只者ではなかった。そう、女の裸体くらいでは、一向にひるまなかった。
「だ、誰ですか?き、君は?」
声も冷静だった。
「天道道場の乱子でーす。神崎さんに弟子入りしましたぁっ。お初におめにかかりまぁーす!」
「ら、らんこだあっ?」
そう、反復して、日向はしげしげ裸体の女の顔を見定めた。
傍らの女性は唖然として二の句を継げないで居た。
「で、その乱子くんは何やっているんです?そーんな格好で。」
日向は溢れてくる怒りを一応押さえながら尋ねた。
「見てのとおり、びしょ濡れになった服、絞ってるんですけど…。」
悪びれる様子もなく、らんまはすんなりと答えた。
「僕が聞きたいのは、何で君がここで服を絞っているんですかって事です!」
答えようによっては、女とて容赦しないぞという、日向の怒りがその口調には含まれていた。
「神前さんにヴァイオリンのレッスンを受けに来てたんですけど…さっき、その、八宝斎のジジィ様に思いっきり頭から水をかぶせられたんです。私…。」
「八宝斎のジジィ?で、そのじい様は、何でまた、君に水を浴びせたんです?」
日向は勤めて平静を装いながら疑問を投げかけた。
らんまは、日向のこの問いの返答には一瞬窮した。どう説明したものか、一瞬考え込んだのだ。常識人には己たちの葛藤などわかりようがないし説明のしようがなかった。
「し、知りませんわっ。八宝斎のジジィ様は、片っ端から人に水をかけて行くって有名な変態じい様ですのよ…っほっほっほ。」
喋り南慣れない女言葉で、適当に誤魔化すしか手がなかった。
女好きのスケベ八宝斎に(水をぶっ掛けられて)女体にされた等と、口が裂けても言えなかった。自分が水や湯で、性別が自在に入れ替わるフザケタ変身体質の持ち主などとはこの目の前の誰だかわからぬ男に知られたくは無かったのだ。
日向とて、目の前に居る、恥じらいのない小娘が、実は男だなどという、カラクリがあるなど、予想だにしていなかった。
日向は眉をしかめた。この、乱子という小娘の存在がまったく掴めなかった。。
口調は勿論の事、ふくよかなバストを隠すでもなく、平気で日向の前にぶら下げている。
羞恥心が無いのか、女として己を自覚していないのか、それとも己を誘惑しようとしているのか…?何故この家の中に居る。神前はどうした?
疑問は次々と湧き上がる。
それにしても、こんなデリカシーの欠片の一つもない女は初めてだった。
「まあ、いいでしょう。ところで、神前はどうしました?」
日向はらんまに尋ねた。
らんまがその問いに答える前に、リビングの扉が静かに開いた。
四、
入って来たのは神前だった。
「着替え、持ってきたよ、乱馬く…ん。」
神前はリビングに日向を発見して、語尾を飲み込んだ。
「あ…ひ、日向さん。帰ってたんですか。気づかなくってごめんなさい。」
ドキドキ心臓は高鳴り始める。
「君ねえ…。ここへは女性は沙耶さん以外は入れないってことになってるの知ってるでしょう?それを何ですか?この体たらくは…。」
当然のように日向は神前に小言を垂れ始めた。
…まっ、まずいっ!!
神前はそう思った。
ここ、ムジカハウスの鉄則の中に、日向が認めた女性以外は禁制という絶対の条項があった。その禁を破ったことになる。
「あ、あの…。こちらはこの前説明した格闘オケの相手方の道場の娘さんで…。乱馬…いえ、乱子ちゃんっていうんですよ。打ち合わせついでにお仲間と落ち合って尋ねて下さったんですが…。」
「お仲間?」
「あ、はい…。川出さんと今頃打ち合わせに行ってます。」
「じゃあ、なんで彼女だけがここに居るんですか?」
当然の突込みだ。
「あの…。ちょっと気分が悪くなって休ませていたんですよ…。そしたら、その…。変なじいさんがいきなり現れて、水をばっしゃって…。ほら、僕もやられました…。」
と頭をわざとらしく掻いた。
そして、ちらっと日向に同行した女性を見やって俯いた。
「神前くんが嘘なんかつかないわよ…。ねえ、日向さん。」
女性はくすくす笑いながら二人を見比べた。
「沙耶さんがそう言うならそうなんでしょうけれど…。」
だが、日向は、何やらそわそわしている神前の様子に腑に落ちない引っ掛かりを感じていた。が、確かに神前も水に濡れた痕跡がある。しかし、それ以上に、変に自分達に対して変に馴れ馴れしい、小娘にムカムカしていた。が、これ以上感情を顕にするのも大人気ないと思い直した。
「兎に角、君、服を着たまえっ!話はそれからだ…。」
日向は乱子を促(うなが)した。
「乱馬…いや、乱子ちゃん、はいっ、着替え……うっ、うわーっ!!」
着替えを差し出して、神前は唐突に叫び声を上げてしまった。
そう、目の前のらんまが上半身、何もまとわず、見事なオッパイを開けっぴろげにさらけ出している事に、ようやく気付いたからだ。
「な、なんだよっ。神前さん、急に!」
神前の叫び声に、らんまも驚いてしまった。
「ら、ら、ら、ら、乱子ちゃんっ。お、お、お、お、おっぱいっ。」
「あん?」
「そ、その、オッパイ、なんとかしてっ。」
指を指しながら、神前は見慣れぬ女の裸体に赤面して固まっていた。
らんまの実体が「男」だとたとえ分ってはいても、やっぱり、オッパイは神前の目には猛毒だった。顔中を真っ赤に染めて、らんまの前に着替えを突き出していた。
そんな神前の狼狽ぶりを端で見ていた日向は、女体をふらつかせているらんまに怒りを感じていた。
「きみっ!早く、その、胸をしまいたまえーっ。」
沈着冷静さは、いつしか日向からも消え去り始めていた。
「いつまでも、そんな物を、ぶらつかせているもんじゃあ、ないでしょうっ。女の慎みが君にはないんですかっ?」
いつのまにか、声も荒調子になってきた。
しかし、男のらんまには「女んの慎み」と言われても、ピンとは来なかった。むしろ、神前の狼狽ぶりと日向の怒りを楽しんでしまっていた。
後ろで沙耶がくすくす笑い転げていた。
「あっ、わりぃ、わりぃっ。すぐに着替えますですわっ、おホホホホ…。」
とおどけて見せた。
らんまは固まってしまっている神前から、チャイナ服をもぎ取ると、
「あっちむいててね。」
と、今更ながらに恥らって見せた。
そんな、らんまの態度に、いい加減頭に来ていた日向は鼻息も荒く、
「あ、あたりまえですよっ。そんな、おぞましい物、僕は見たくはありませんからねっ。」
と声を荒らげた。
「んまーっ。おぞましい物ですって?聞き捨てならないわね。」
らんまは悪ノリをはじめた。
「あなた、女のコのオッパイに興味ありませんの?」
そう言うと、らんまは今度はわざとふくよかなバストをペロンと日向の鼻先に突き出して見せた。
「なっ、何てことを…。」
「あらーっ、こちらのおじさまは、オッパイお嫌いなのかしらん?神前さんはそうでもないみたいですけどっ。」
神前は、目の前に広げられたらんまの眩しい女体に、我を忘れて、真っ白な状態になっていた。通常の思考回路は最早何の役にもたたなくなっていた。
「神前さんは、お好きよねえっ。ほーらほらっ。」
らんまは、右手を喉頭部に左手を腰にあてたモデルポーズで、ますます、オッパイを突き出して見せた。
「ちょっ、ちょっと、乱馬、い、いやっ、乱子ちゃん。辞めてくれっ。やめてくれったら―ッ。」
神前は精一杯の声を上げた。
その様子を見て、日向の怒りは頂点に達した。
「いい加減にしたまえっ!それに私は「おじさん」じゃありませんっ!コンダクターの日向昇ですっ!!」
めらめら、ムラムラ、溢れんばかりの、乱子への怒りが頭を駆け巡って行く。
そして、遂に、日向の中の何かが一気に弾け飛んだ。
そして、その怒りをらんまにぶつけようと行動に出ようとした、まさに、その瞬間だった。
ドバシャ―――ンッ!!
「!!!?」
そう、またしても、八宝斎が現れ、今度は日向の頭上から、「お湯」を浴びせ掛けたのだった。
「あー―ッ。また、性懲りもなく現れやがったなぁっ!くそジジィっ。」
らんまはそう叫ぶと、八宝斎目掛けて飛びかかっていった。
お湯でびしょ濡れになった日向は、自分の身の上に何が起こったのかわからず、ただ呆然と立ち尽くてしまった。
八宝斎は、湯気の向こうの日向が女に変身しないことを確認すると、らんまの追撃をひょいひょいっとかわしながら、
「これならどうじゃっ?」
と、今度は「水」を日向の頭上にぶちまけた。
ザッブ――ンッ。
二度にもわたる、八宝斎の攻撃に、日向は最早、さっきまで抱いていた乱子への激情をすっかり忘れ去ってしまっていた。「お湯」の後にかぶる「水」の冷たさは、予想以上に日向の身体を刺していた。
「こんのーっ。神前さんや俺だけでは飽き足らず、日向さんまでびしょ濡れにしやがってーっ。もー、勘弁なんねえっ。」
らんまは素の「男」に立ち戻って、八宝斎を追い掛けた。
「なーんじゃっ、おまえさんもただの男か。つまら――ン。」
日向には何の事やらさっぱりわからない、フザケタ言葉を吐きながら、八宝斎は逃げ回っていた。
らんまは怒りで、さっきよりもスピードを増して追い掛けたが、なかなか思うように八宝斎は捕まえる事ができなかった。
らんまはムキになって八宝斎を追い掛けまわしていた。
二人はいつしかリビングを飛び出して、庭先を駆け回って追いかけっこを続けていた。
五、
「日向さん。大丈夫です?」
沙耶は、ずぶ濡れの日向に声をかけた。
お湯と冷水を交互にぶっ掛けられたショックで、我を失っていた日向は、沙耶の声にようやく自分の置かれた状況を把握し始めた。
「いったい、何なんです?この有様は…。」
神前は、らんまに持って来たバスタオルを日向に差し出しながら答えた。
「さあ…僕も乱子ちゃんも、さっきからあの爺さんに水だのお湯だのぶっ掛けられて困っていたんですよ。だから、タオルを乱子ちゃんに持って来てあげたんだけど…。あの調子じゃあ…。」
追いかけっこをしている乱子を横目に見て、神前は苦笑いをした。
「なるほどね。まんざら嘘を言ってた訳ではないのですね。安心しました…。君に限って女性を連れ込むなんて考えられませんからね…。たぶらかされたとでも思いましたよ。」
「たぶらかされるなんて、とんでもないっ。本当に、なりゆき上こうなっただけで…。」
神前は慌てて否定した。
ふっと、日向は安堵の溜息とも笑いとも、つかない息を鼻から漏らした。
「ま、神前があんなデリカシーの欠片もない小娘に惑わされる事はないでしょうね。沙耶さん。」
日向は傍らの沙耶に笑いかけた。
「あ、当たり前ですっ。何言い出すんですかっ、日向さんったら…。」
神前としては当然の答えだった。
乱子の正体は「男」であったし、彼には可愛い許婚までいる。…但し、この事はみんなにはナイショだったが。
「ところで、神崎君、。この間役所の女性が言っていた件なんですが、さっきポストにこんな物が入っていましたよ。」
そう言って日向は、ずぶ濡れになった封筒を神前に差し出した。
「この間の件て?」
いきなり話題が変わったので、神前は日向が自分に何を言っているのか、ピンとこなかった。
「ほら、高校の臨教(臨時教諭)の件ですよ。封筒は少し濡れてしまいましたが、中身は大丈夫みたいですね。」
神前は、それを聞くと、目を輝かせて、封筒の封を切った。
「何て言ってきてます?」
日向が訊くと、
「採用が決まったから、明日、面接に来て下さいって…。」
神前は明るく答えた。
「明日ですか。それは、また、急ですね。」
「もうすぐ新学期ですからね。向こうも急いでいるのでしょう。嬉しいな。」
もりむらは、ニコニコしていた。
「本当に行く気ですか?無理して臨教なんかしなくとも…。」
日向は少し不満げだった。
「僕だって、いつまでも、こちらに甘えっぱなしじゃあ、ヴァイオリンの腕だって上がりませんからね。臨教なんて、渡りに船です。」
日向はタオルでバサバサと頭をしごきながら答えた。
「練馬っていうのがちょっと…。」
「だから、ちょうどいいんですよ。天道道場にも近いでしょう?」
…その天道道場に近いからイヤなんですよっ。川出くんが言ってましたが、何でも訳のわからない連中が巣食っているという話じゃないですか…。
日向はそう言いたかったのだが、グッと堪えた。本音を言ってしまえば、天道道場の不可解な人々と神前が親密になって欲しくはなかったのだった。
しかし、乗り気で浮き足立っている神前には言い出せなかった。彼は神前のヴァイオリンの才能を高く評価していた。なかなかチャンスに恵まれなくてこんなところで燻っているが、いつか、世に出る音質を持っている。彼が殆ど無償で暁というアマチュアオケに関わりを持っているのは、神前がコンマスを勤めているからというところが大きかった。
日向はかわりに息をひとつ吐き出して、言った。
「まあ、決めるのは君自身ですからね。」
「良かったわね…。神崎君。頑張ってね…。」
沙耶が微笑みながら神前を見詰めた。神前はその柔らかな視線に、少しドキッとして目を落として頭を掻いた。
「うん、とにかく、明日、紹介された風林館高校まで行って来ます。」
とはにかみながら神前は答えた。
風林館高校…。そう、神前も日向もその時、風林館高校が、乱馬とあかねが通う学校だったとは、夢にも思わなかった。
むろん、日向がその事を知っていたら、臨教の話は無理にでも止めに入っていたかもしれない。
臨教の話しを三人がしている間にも、らんまと八宝斎は追いかけっこを続けていた。
「くそジジイ、待ちやがれ――っ。」
「いやじゃーっ。」
「ちっきしょー、ちょろちょろと。…よー―しっ。」
らんまは追撃のスピードを緩めると、
「ハッピーちゃ―――ン。こっち、イラッシャー―い。」
と言ってセクシーポーズを決めた。(もちろん、上半身は裸だ)
「オオっー―、すいーとっ。!」
すけべ八宝斎は、ついついらんまにノせられて、豊かな胸の膨らみの中に吸い寄せられて行った。
「やったーっ、つかまえたぞっ。」
「し、しまった、つい、罠とわかっていても、勝手に身体が…。」
らんまに胸倉を捕まれて、八宝斎はジタバタした。
「ジジイ、わかってんだろうなーっ。」
らんまはニタリと右手で拳骨を作って見せた。
「ゆ、許してくれーっ。」
「聞く耳持たねえっ。」
「許してくれたらいい物やるぞっ。」
「ほおっ、いい物ねえ。」
「お主、信用しとらんなっ。」
八宝斎はムキになって涙ぐむ。
「あったりめェだっ。いつもいつも、てめえは。」
「とっておきじゃったが、おまえにやるわいっ。」
八宝斎はそう言って、懐からある物を取り出した。
「ウゲ――ッ、な、何すんでえっ。」
らんまは悲鳴を上げた。
なんと、八宝斎は懐からブラジャーを取り出したのだ。そして、電撃のような早業で、あろうことからんまに装着したのだった。
「き、きついーっ。ぐ、ぐるしーっ!!む、胸が潰れるーっ。」
ブラをムリヤリ装着されたらんまは苦しがった。そう、らんまのバストには少し小さい代物だったのだ。
「しょうがないのう、どれっホックを緩めて遣わそう。」
八宝斎はそう言うと、器用な早業でブラのホックを緩めた。
「これでどうじゃっ。うんうん、よく似合っとるぞ。」
と八宝斎は、一人で悦に入っている。
「て、てめえ、一人でなに納得してやがる…。」
らんまは怒りで全身が震え始めた。
「女体にブラジャーは不可欠じゃっ。ちゃーんとつけておかんと、せっかくのオッパイも形が崩れてるでな。…いやいや、礼には及ばんぞっ。」
八宝斎はにこにこしていた。
「だ、誰が礼なんか…言うかよ―――っ。」
そう良いながら、らんまはゆっくりと拳を握りしめた。そして、
「失せろーっ!このお下劣じじいーっ。」
次の瞬間、右手を振り上げた。
ちゅどー―ンっ。
八宝斎は、空高くぶっ飛ばされた。
それでもなお、
「ブラジャーは乙女のたしなみぞーっ。ゆめゆめ忘れる事無かれ―。」
と言いながら、彼方に消えていった。
「終わったかな、追いかけっこ…。」
リビングの窓から、らんまたちのやり取りを見つめていた、神前はポそっと言った。
「全く、分らない人達ですねえ…。」
日向も沙耶もはあっけにとられていた。
さっき、持っていた乱子への怒りはすっかり萎えてしまっていた。というより、あんな連中の為に、我を忘れ、切れかけていた自分が、情けなくなっていた。
そう、沈着冷静な日向昇に、立ち戻っていた。
…あんな奴らを相手に大人気無いっ。私もまだまだですねえ…。
張ってある伏線…風林館高校(笑
友人とのリレーそのままのお下劣ギャグはまだまだ炸裂するかも・・・(笑
だから表に持っていけない?
次回も炸裂します…多分?
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