◆飛鳥幻想
第四話 小治田の古宮
九、石上麻呂
翌朝は、生憎、雨が滴り落ちていた。夜半頃から降りだした雨は、止むことがなかった。
古代の宮だ。天井の建てつけも、そんなに良好とは言い難く、そこここから水滴が滴り落ちてくる。
「まるで、天道家のオンボロ道場みてーだな…。」
その様子を眺めながら、乱馬がため息と共に吐き出した。
「悪かったわねっ!オンボロ道場で!」
あかねが鼻息荒く、乱馬を睨みつける。
「何か、雨漏りだらけの屋敷だな。」
「仕方ないわよ。ここ、古代だし。建てつけが悪くても、雨風凌げたらマシだわよ。」
なびきが突き放すように言った。
古代の朝は早いようで、日の出前ごろから、館のそこここで生活音が響き始めていた。
日の出の開門と共に、官人たちの仕事も始まったという記録があるから、陽が昇って起きるのは寝坊な方だったろう。
「皆さん、お目覚めですか?ぐっすり眠れました?」
桂がひょいっと顔を出した。
「あ、おはようございます。」
あかねがそれに答えた。
「やっぱり、この時代の人たちって、太陽と共に生活しているから、朝が早いのねえー。あたしなんか、宵っぱりだから、あんなに早く就寝しても、まだ眠いわ。」
ふわああっと伸びあがりながら、なびきが言った。
「だらけすぎよ、お姉ちゃんは、春休みだからって、寝坊してるものねえ。」
「休みくらいゆっくり寝たいじゃないの。」
なびきが溜め息を吐き出した。
「俺なんか、身体が動きたくてウズウズしてんのによー。できれば、古代の道をロードワークしてーくらいだぜ。なあ、あかね。」
「あたしに同意を求めないでよ。筋肉馬鹿のあんたとは違うんだから。」
とあかねが突き放すと、乱馬がムスッと言いかえした。
「そうか、ロードワークしたくないか…。まあ、てめーは、この頃、修業をなまけてるもんな!」
「何ですってえ?」
雲行きが怪しくなる乱馬とあかねを前に、桂が間に入った。
「まあまあまあ…。言い争いはなさらずに。…まずはお支度なさって、朝餉(あさげ)をお召し上がりください。」
「おっ!待ってました!飯っ!」
「たく…。他に楽しみは無いの?」
「無いっ!」
「そんな大声で言うなっ!」
三人三様、出された朝餉へと手を延ばした。
米は玄米つきで固く、野菜も薄い塩味くらいしかしない。温かい汁もあったが、これも、濃い味付けに慣れた現代人には、お世辞にもおいしいとは思えないくらい薄かった。
それでも、食事にありつけるだけありがたいと、三人とも、文句は言わずに、箸に手をつけ始めた。
「一応、箸で食べるんだな。」
乱馬は変に感心して見せた。
「でも、あなたがたが異世界からお越しになったっていうのは、本当のようですね。」
桂が興味深げに、三人に問いかけてきた。
「あん?」
「いえ、あなたたちの到来は、あらかじめ予言されていたことだと麻呂様がおっしゃいましたので。」
「麻呂様って誰だ?」
「この宮の現在の主です。」
「現在の主?」
「ええ、この宮の一切を預かられている御方ですわ。昨夜、あなたがたをここへお連れしたのも、麻呂様です。」
と桂が答えた。
「もしかして…あの爺さんのことか?」
乱馬が問いかけると、桂はコクンと頷いた。
「稚媛様と安宿媛様を探しに行かれて、あなた方と共に、ここまでお連れしたのが麻呂様です。」
「安宿媛様ってーのは、えっと…。誰だっけ?」
乱馬の問いかけに
「藤原不比等様の娘御ですわ。」
「藤原不比等様ねえ…。それって誰だっけ…。なびき…。」
日本史に全く明るくない乱馬は、なびきに助け舟を要請する。
「中臣鎌足改め藤原鎌足の跡取り息子よ。出生にはいろいろ謎があるみたいだけど、一応、鎌足の跡目を継いだのは彼らしいわ。で、安宿媛は後の光明子(こうみょうし)。光明皇后と呼ばれているわ。そのくらい一般常識として覚えておきましょうね、乱馬君。」
なびきはにっこりと微笑んだ。
「うー、わかんねー。そもそも、光明子って誰なんだよ。何した奴なんだ?歴史的有名人か?」
矢継ぎ早に質問してくる乱馬に、あかねが答えた。
「聖武天皇の正妃よ。正倉院の建立とかいろいろ表舞台で活躍した女性だから、名前くらい知っときなさい!」
「知るか―!」
「こらこら、あかねも乱馬君も、声を落として話しなさいな。」
「なんでだよ?」
「ここが過去の世界だとすると、下手すると、日本史を変えちゃうことになりかねないって、昨夜も言ったでしょう?忘れたの?」
なびきが釘を刺した。その向こう側には、レクチャーを繰り広げる三人を、興味深げに桂が見つめている。
「ああ、んなこと、言ってたっけ…。」
乱馬も頷いた。
「じゃあ、話を進めましょうか…。えっと、私たちが助けたのは、安宿媛様と稚媛様だったわよね?」
と桂へとなびきは改めて疑問を振った。
「あの鏡を首からつら下げてたのが、稚媛様っていうのか…。」
乱馬が口を挟んだ。
「そうです。常に鏡を胸につけておられるのが、媛様ですわ。稚媛様は巫(かむろみ)ですから。」
桂が頷いた。
「巫(かむろみ)だあ?何だそれ…。」
「巫女さんのことよ。」
あかねが隣から言った。
「へー、おまえ、そんな言葉知ってるのかよ?」
「え…ええ。まーね…。最近知った言葉だけど…。」
「誰に教わったんだよ…。」
「あれ?誰に教わったんだっけえ…。」
昨夜、鏡石から抜け出た巫女に教わった言葉だが、何故か、すっと口をついて出た、古代巫女とのいきさつは、この時点ではあかねの記憶から逸(いっ)していたにも関わらず、覚えていたようだ。
「ボケとるのか?おまいは…。」
乱馬ジロッとあかねを見ると、なびきが横から口を挟んだ。
「あかねが言うとおり、巫(かむろみ)とは、巫女より一歩踏み込んだ、神職者といったところかしらね…。簡単に言うと、斎(いつ)くとは、神様を祀ることを言うのよ。」
すらすらとなびきは乱馬とあかねの疑問を補足した。これも、古代史検定の勉学の成せる技だろう。
「巫ってのが何なのか、わかったが…。まだ子供だぜ?あんな子供に巫女なんて務まるのか?」
「参考になるかどうかわかんないけど、伊勢神宮の斎宮は、十歳に満たない幼児が占いで選ばれることもあったそうだから、別に年齢は問わないんじゃないかしら。」
なびきが己の知識をフル回転して答えた。
「稚媛様は年こそ幼いですが、巫としては、当代切っての能力をお持ちだと言われていらっしゃいますわ。それが証拠に、あなたたちの出現も、ちゃんと卜占されていたそうですから。」
乱馬とあかねの二人の言を受けて、桂が得意げに言った。
「卜占って何だ?」
「占いのことよ。」
「ってことは、その、稚媛は俺たちがここへ来ることを知っていたってこと…なのかよ。」
「そうよねー…。」
「でもさあ、女の子二人で、何で、あんな森の中に一緒に居たの?」
とあかねが問い質した。
「ああ、しかも、何で森の中で変な男や狼たちに追われてたんだ?」
と乱馬が頷くと、後ろ側で声がした。
「こちらにも、いろいろ事情があってのことじゃ。」
と甲高い声と共に、少女が入って来た。
回りに居た侍女たちが、必死で部屋への侵入を引きとめにかかっていたが、少女はそれをふり切って、御簾の中へと入って来た。
「昨日は危ないところを助けてもろうて、感謝しておるぞ。」
少女は、乱馬たちを前に、ペコンと頭を下げて礼を述べた。
頒布をまとった、聡明そうな少女だった。平成の世で言えば、中学生くらいの生意気盛りのローテーンエイジャーといったところだろうか。
「わらわの字(あざな)は安宿媛じゃ。」
少女は自分の名前を、自ら告げた。
「アスカヒメ…。都と同じ名前なんだな。」
と乱馬が言う。
「ねえ、あなたのお父上ってさあ、やっぱり、藤原不比等様なの?」
あかねが問いかけると、
「いかにも、わらわは右大臣(みぎのおとど)、藤原不比等の娘じゃ。」
としっかりした声で出自を語った。
「さっきから、何をこそこそと話していたのじゃ?こうみょうしが何とかとか…。一体何のことじゃ?良かったら教えてたもれ。」
とせがまれたが、うっかりと彼女の未来については教えられない。当然、乱馬たちは誤魔化しにかかった。
「あはは…。別に、大意はねえ…。なあ。」
「え、ええ。ちょっと、いろいろとディスカッション。」
あかねと乱馬は互いに、頭を掻きながら言った。まさか、当人に、将来、聖武天皇の妃になるなどとは、軽々しく云えなかった。
「安宿媛様は何故、ここまでお渡りに?」
桂が少し困惑気に安宿媛を見返した。特異な行動になるのだろう。
「稚媛がそなたらを異世界から迷い込んだ客人だなんて言うから、そこのところを確かめに来たのじゃ。いろいろ報告しないと、首(おびと)様も機嫌が悪くなるゆえ。」
と安宿媛は無邪気に笑った。
「首様?」
と尋ねる乱馬に、桂は言った。
「日嗣(ひつぎ)の御子様の御名前ですよ。」
「日嗣の御子って何だ?なびき。」
「皇太子殿下のことよ…。」
「皇太子殿下ってことは、次の天皇ってこと?お姉ちゃん。」
「そうよ、首皇子っていうのは、聖武天皇の皇子名よ。」
なびきは、乱馬とあかねの疑問に答えた。
「そちたちはどんな世界から参られた?天界か?それとも地の世界?」
安宿媛は好奇心旺盛な瞳で、物怖じなく尋ねて来る。この辺りは、まだ、子供のあどけなさを残している。
「まあ、異世界ちゃあ、異世界だな…。この世界の人間じゃあ無えしよー。」
乱馬は即答した。
「じゃあ、この雷丘(いかずちのおか)に近いから、雷丘目がけて空から落っこちてきた雷神様か?」
「あん?」
「この辺りは雷丘と呼ばれていて、大昔、雷神様が落っこちてきて、それを少子部(ちいさこべの)スガルっていう若者が捕まえたという伝説があるのですよ。安宿媛様はそれについて、尋ねられているんです。」
と、桂が説明してくれた。
雷丘は、水落遺跡からそう遠くない場所に位置する小高い丘だ。この辺りには宮跡ともとれる建物跡も見つかっている。その遺物の中に、「小治田宮」と書かれた須恵器が発見されており、この雷丘の遺跡こそ小治田宮の跡だという説が強く言われるようになった。
また、「雷」というその地名が示すとおり、飛鳥の中でも雷が良く落ちた場所だったようだ。その地形から、この辺りでは空気の流れが変わり易かったようで、夏場は、湿った空気が流れ込み、雷鳴をとどろかせたと思われる。また、地に落ちて来た雷神様をスガルという若者が捕まえたという伝説も残っている。
今の雷丘は、丘と呼べるかどうかあやしい感じだが、時代と共に掘削されたと言われていて、丘の高さが古代より少しばかり低くなっているという。
天の香具山の方から甘樫丘の方へ車を走らせていると、「雷」と地名の看板が上がった信号機が印象深い。
「俺は、雷神様とか、そんなんじゃねーよ。ただの人間だよ。」
乱馬は、安宿媛の問いかけに、手を横へ振って答えた。
「そう、あたしたちは、普通の人間よ…。…乱馬以外はね。」
横からあかねが付け加える。
「こら、その俺以外っつーのは何だよ…。」
「あんたは普通じゃないじゃない。」
「何だとっ?」
「はいはいはい…口げんかはそこまでね。お二人さん。話が前に進まないから。」
となびきがパンパンと手を叩きながら、二人の間に割って入った。これ以上、二人が言い争いを続けると、乱馬が男だということがばれてしまうかもしれないと、危惧したからであろう。
「あのさあー、おめーらさあ…、あんな森の中で何やってたんだ。どうして、狼たちに追っかけられてたんだ?」
と乱馬は問いかけた。
「そうですよ。昨日は、宮から媛様たちが居なくなったって、それは大騒ぎになったんですから。」
桂も一緒に媛たちに問いかけた。
「おめーら、黙って宮を出たのか?」
その問いかけに、安宿媛はコクンと頷いた。
「稚媛がまじないをするのには、良質の埴(はに)が必要だって言ったから、天気も良いし、こっそりと宮を抜け出したんじゃ。」
と屈託なく答えた。
「埴(はに)?」
「土のことよ。」
乱馬の問いにすかさずなびきが答えた。
「まじないに土ねえ…。」
と、桂が厳しげな顔を安宿媛に手向けた。
「媛様、もしかして、飛鳥川を渡ったんですか?」
「ちょっとだけなら大丈夫と思って、東側の朽ち橋を渡った…。そしたら、いきなり、真神一族が襲ってきて…。あの時は、本当に殺されるかと思うたぞ。」
元々人懐っこい性分なのだろう。安宿媛は乱馬たちに、気安く、昨日のことを話した。
「真神(まかみ)って何だ?」
また聞きなれない言葉が、古代人たちの口から飛び出し、乱馬は即座に尋ねた。
「ここから南東に広がる野原を真神原(まかみはら)と呼んでいて、古来よりその辺りを根城にしていたのが真神一族です。
彼らはあまり外の人間とは交わろうとしないんです。彼らの境界を越えて、里へ踏み込むと、侵入者として容赦なく襲ってくるような連中なんですよ。
最近は、真神原辺りだけではなく、甘樫丘辺りまでも根城としている、迷惑極まりない連中です。」
桂が説明した。
「おいおい穏やかでねーなあ…。侵入したくらいで襲われるか?普通…。」
乱馬が吐きだすと、桂は、乱馬越しに安宿媛に顔を手向けて言った。
「真神の連中は頭が固いですからね…。飛鳥川を渡るなんて、命が幾つあっても足りませんよ…。場合によっては殺されかねなかったんですよ。無謀すぎます、安宿媛様…。」
とその時だった。背後で人影が立った。
「なるほどのう…。真神の根城へ入って、襲われたのか…。それでは、媛様たちの方に非があったのう。」
背後で、聞き覚えのある、爺さんの声が響いた。昨日、媛様たちを保護した、あの老人だった。
「おはよーっ!桂ちゃーん!」
老人は、一転、そう叫ぶと、桂の体へとひしっと抱きついた。
「いやああああっ!」
桂の怒号と共に、バシッ!ビシッ!と音が弾けて、老人の身体は、乱馬たちの前へと張り落とされた。
「な、何だ?」
何事が起ったのかと、乱馬が覗き込む。
と、その塊は、ガバッと起き上がり、乱馬の胸元へとむきゅっと飛びついた。
「おー!ゆうべはわからんかったが、この娘っ子もええ身体じゃあっ!ワシ好みじゃー♪」
短い手で、ぐぐっと乱馬の胸元へと飛びついた。
「いきなり、何すんでー!じじいーっ!」
その言葉と行動に、ぴきっと切れた乱馬は、次の瞬間、容赦なくそいつを叩きのめしていた。
当然だ。この世界へ足を踏み入れた時、たまたま女体化していたので、そのまま、元の姿に戻らず女のまま過ごしていたが、元は男だ。男に抱きつかれたくない願望は、純粋な女性以上強い。
「そんなに乱暴に扱わんでも良いではないか!」
爺さんが床にうずくまって、恨めしそうに乱馬を見上げていた。
「もー!麻呂様ったら…。御客人たちが困惑なさっていらっしゃるではありませんか!」
桂が苦笑いしながら、爺さんをつまみあげた乱馬へと瞳を転じた。
「誰かと思えば、昨日の爺さんかよ…。」
つまみあげた爺さんを片手に、乱馬が怪訝な顔を浮かべる。
「あ…はい。この方が左の大臣(おとど)の石上麻呂(いそのかみのまろ)様です。」
桂が答えた。
「左のおっとっと?で、くその神の麻呂様?」
乱馬が爺さんをしげしげと眺めた。
「くその神ではないわいっ!無礼者っ!」
ポカッと麻呂が乱馬の頭を叩いた。
「痛えーなっ!」
乱馬が睨みかえすと、爺さんは言った。
「ワシの名は石上麻呂(いそかみのまろ)じゃ。覚えておけっ!」
と横柄に言った。
「いそのかみのまろ…ねえ…。」
「そなたは何と申す?」
爺さんはいきなり、乱馬に尋ねてきた。
「俺の名は早乙女乱馬だ!」
乱馬の名を聞くと、キランと爺さんの瞳が輝いた。
「早乙女氏(さおとめうじ)の乱馬とな…。ふっふっふ、不用意に諱(いみな)を名乗るとは、浅はかな奴め。どら、安宿媛様もいらっしゃることじゃし…。ちょっと余興をお見せしようかのー。」
そう呟いたかと思うと、電光石火、いきなり懐から何やら白い紙を取り出して、乱馬の鼻の先へとそいつを押しつけた。白い人形にくりぬかれた紙だった。
「てめー。何しやがるっ!」
いきなり目の前に振って来た白い紙に、乱馬が怒鳴りつけると、爺さんはその人形にさっと、訳のわからぬ呪文を唱えて、くいっと手の形をしたところを、引っ張った。
「え?」
その動きに合わせて、乱馬は右手を突き上げた。
「勝手に身体が…動く?」
爺さんは今度は手を胸元へと持って行き、モミモミとする動作を示した。
「わっ!」
乱馬の手は己の膨らんだ胸へとあてがわれ、そのまま、自分でもみ始めた。
「ちょっと、あんた、何やってんの?」
あかねが顔を赤らめて怒鳴った。
「知るか!勝手に爺さんの手の動きに合わせて、身体が反応するんでいっ!」
乱馬も訳がわからずに焦りながら返事をした。
「ほっほっほ…「あざな(字・仮りの名)」ではなく「いみな(諱・実名)」を口走るとは…。おバカじゃな。」
そう言って老人は笑った。
「「あざな」と「いみな」って何だ?。」
「さー…。」
疑問符が飛び交う乱馬とあかねに、なびきがこそっと解説してくれた。
「あざなとはとおり名、いみなは本名のことよ。」
「初めて聞くわ。…あざなってあだ名みたいなものかしら…。それとも、源氏名?芸名?」
「どれもニュアンス的にちょっと違うような気がするが…。」
あかねの、とんちんかんな言葉に思わず乱馬は苦笑いを浮かべる。
「確かに、古代日本じゃ本名は教えなかったって風習があったってきいたことがあるわ。ほら、明日香村埋蔵物資料室の人も、そう言ってたじゃない。」
「あ…そう言えば、紫式部も清少納言も本名じゃないって言ってたな。」
思い出した乱馬が納得した。
「人に本名を知られる事は、魂を握られるのと同じだと思われてたらしいわよ…この時代は…。」
なびきが頷いた。
「じゃあ、この現象ってーのは、もしかして…。」
乱馬は爺さんを睨んだ。
「ほっほっほ。理解したよーじゃな。然り。ワシは傀儡(かいらい)咒法も得意じゃからなあ…そら。」
爺さんは乱馬の息がかかった人形を、ちょこまかと動かす。それに応じて、乱馬の身体が勝手に動いた。
「こらっ!人の身体をもてあそぶなーっ!」
乱馬が怒鳴っている。
「これは凄い!」
あかねとなびきの後ろ側で、安宿媛が愉しそうに手を叩いて喜んでいる。
「ふっふっふ、さっきワシに乱暴を働いた仕返しじゃ!その着物の下、覗いちゃおうかなあ…。」
爺さんはすいっと乱馬のチャイナズボンを脱がす動作を始める。
「やめろーっ!ど阿呆ー!」
「ほんと、バカね…。本名、思いっきり名乗ってたもんね…。」
あかねはボソッと吐き出した。
「いい加減にしてください!麻呂様っ!石上一族の巫(かむろぎ)の力はこのような事に使うものではないでしょう?」
桂が爺さんの暴走を制した。
「おっほっほ、今日はこのくらいで辞めておこうか…。」
爺さんは紙の人型から手を離した。
ハアハアと乱馬がズボンを半分脱ぎかけた姿で睨みつける。
「たく…なんてエロじじいなんだっ!」
そう吐きつけた。
「何か、八宝斎のじいいを思い出すぜ…。」
「案外、ご先祖さまだったりして…。」
乱馬とあかねは苦笑いを浮かべながら、爺さんを見つめる。目の前の爺さんは八宝斎の爺さんに、顔も似ていなくもない。
「いや、マジであの助平ジジイのご先祖様なんじゃないか?」
乱馬が迷惑そうに吐き出した。
十、字と諱
「なあ、俺たちの到来を予測されてたってーのは本当なのか?」
目の前で白湯を飲む爺さんを眺めながら、乱馬は唐突に問いかけた。
まだ、この時代、お茶は出現していない。故に飲物は白湯か水、もしくは酒だ。
「ああ、予見したのは、ワシではないがな…。」
ずずっと白湯を飲みながら、爺さんは答えた。
「稚媛様は先見(さきみ)の能力が秀でておってな…近いうちに、こことは違う御世からから、客人(まろうど)が来ると、言うておった。」
安宿媛は淡々と頷いた。
「まろうど?」
聞きなれぬ言葉に乱馬がきびすを返すと、
「口語訳したら、訪問者ってところかしらね。」
となびきが答えた。
白湯の入った陶磁器を持ちながら爺さんが答えた。
「ふーん…。先見ねえ…。で?爺さん、えっと、石上麻呂(いしがみのまろ)…とか名乗ってたよな?」
「ああそうじゃ、氏は石上(いしがみ)、名は麻呂(まろ)じゃ。左大臣(ひだりのおとど)を務めておる。」
コホッと咳ばらいしながら、爺さんは答えた。
「左のおっとっと?」
「おっとっとではなく、「おとど」。つまり、左大臣…。官位の中では一番上の位よ。」
こそっとなびきが答えた。
「麻呂様は、現在、新益京(あらましのみや)と飛鳥京の留守を預かっていらっしゃいます。」
「新益京?」
「藤原京のことね。飛鳥より新しい宮という意味で、新益京って呼ばれていたそうよ。」
横からさらっとなびきが答えた。
「てめーは、んーなことまで知ってるのかよ。」
「当然(とーぜんっ)!」
なびきはエヘンと胸を張る。
「でも、さらに新しい寧良(なら)の都に尊皇(すめらみこと)をはじめ、人も建物も、殆んど遷ってしまって…。新益(あらまし)じゃなくなったんですけどね…。」
桂が答えた。
「それで、藤原宮の留守を預かってるのか…このじじいが。」
乱馬が爺さんを見下ろすと、
「おおそうじゃ!何てったって、左大臣じゃからのー。」
「つーか、見捨てられたんじゃねーのか?古い都と共に…。」
「ちょっと、乱馬、口を慎みなさいって!」
あかねが慌てて、乱馬の暴言を止めようとした。
「ま、当たらずしも遠からじといったところじゃのう。」
爺さんは、怒りだすことなく、淡々と答えた。
「麻呂様、また、そんな後向きなお言葉を…。」
「新しい都に、こんな老いぼれの力は必要ないということじゃ。それに、尊皇様(すめらみことさま)じきじきに、この古の飛鳥の留守を護れと命じられたでな…。ワシも、新京などへ行ったところで落ち着かんだけじゃ。それより、この古の宮地に居た方がええんじゃよ。」
苦笑する桂を押しのけて、爺さんは言った。
「左大臣ねえ…ってーと、俺たちの時代じゃあ総理大臣みたいなもんなんだろ?…そんな偉そうな顔には見えねーんだが…。」
白湯をゆっくりと口に含みながら飲んでいる爺さんを横目に、乱馬がそんな言葉を投げかけた。
「あ、言っとくが、麻呂は諱(いみな)、本当の名じゃぞ。」
と偉そうに告げた。
「え?そーなんですか?」
あかねが目を丸くした。
「おいおい。この時代の人たちって「いみな」を安易に語ることような事はしねーんじゃねーのか?」
乱馬も驚いたようだ。さっき、実名を爺さんに名乗ったせいで、こっ酷い目に合わされたところだかだら。
「ははは…時と場合によりけりじゃ。ワシのような年長者になってくると、怖いものなどないしのう。諱(いみな)を名乗っても、どうってことないわい。」
と笑った。
「ですわね…。麻呂様は優れた呪術者の一人でもありますから…。諱(本当の名)で通されても、大丈夫ですわ。」
コクンと隣りで桂が首を縦に振った。
「呪術者だあ?」
「さっきもあなたにかけていたでしょう?」
「あ…。勝手に身体が動きだした奴か…。」
「ええ。麻呂様の一族、石上氏は物部氏の流れを継ぐ名一族ですからね。古より、物部氏は魂振(たまふり)の術を行い、邪(よこしま)な者をふり払う能力に秀でていましたから。その腕を見込まれて、尊皇(すめらみこと)様からの直々のお達しがあって、麻呂様は寧良(なら)の新京(平城京)へは参らずに、新益京(藤原京)へ留まっていらっしゃるのですわ。」
と桂が横から補足説明した。
「あのー…物部氏って蘇我氏との崇仏争いに負けて滅んだんじゃあ?」
とあかねは、思ったままを言葉に出してしまった。
あかねの言動に、途端、爺さんの眼尻がつり上がった。
「こらあっ!我が一族を勝手に滅ぼすなっ!布都(ふつ)の御魂を預かる物部氏が、そう易々と滅んでたまるものか!」
と怒り出した。
「うーん…でも、蘇我氏との崇仏争いには破れた訳でしょ?」
あかねが疑問をストレートに投げかける。
「確かに、蘇我氏との確執はあったし、蘇我氏に水をあけられてしまいはしたが、今でも物部の八十氏(やそし)は健在じゃぞ!そもそも、我らが一族は、饒速日命(にぎはやひのみこと)に端を発し……。」
「はいはい、麻呂様、講釈はその辺にしておいてくださいませ。皆さまが固まってしまっているではありませんか。お客人たちにとって、物部氏も蘇我氏も過去の一族なのですわ。一千年の時を越えてここまで来られたくらいですもの…。」
なびきが溜め息を吐きながら、とりなしにかかる。
「あかね。古代史はまだ良くわかっていないことがたくさんあるのよ。不確かなことの方が多いのが実情なの。物部氏と蘇我氏の争いだって、どこまでが史実なのか良くわかってないんだから。それに、あんまり歴史的なことは、口にしない方が良いって、散々言ったでしょうが…。解釈だって時代によって変遷を重ねるものだし…。」
そんななびきの言に、乱馬が反応した。
「だな…。未来人の俺たちが、いたずらに歴史を持ち出すのも、まずいかもしれねーしな…。」
「って、乱馬は歴史についての知識が薄すぎるから、言及したくないだけじゃないの?」
「うるせーっ!」
乱馬やあかねたちのゴタゴタを横目に、安宿媛が、言葉を吐きだした。
「さすがに布都(ふる)の御魂を預かる物部の麻呂爺じゃ。わらわには諱(いみな)を名乗る勇気はまだまだないのう…。
下手に諱を知られると、呪われるかもしれぬからのう…。爺くらいになれば、呪いなど簡単に返せるか。羨ましい限りじゃ。」
この場を、安宿媛なりに収めようと、別の方へと話題を転化させたようだ。
「ほっほっほ、当然じゃ!ワシくらいの優れた術者になれば、諱を堂々と名乗っても、呪いなどへっちゃらじゃ。」
と爺さんは胸を得意げに叩いた。
「優れた術者ねえ…。ただのエロジジイの間違いじゃねーのか?」
乱馬が吐き出した。
「自身に振りかかる呪いなど、容易に吹き飛ばせる爺が羨ましいのう…。」
安宿媛は少し陰りのある表情を浮かべた。あれっと思う間もなく、安宿媛はその場からすぐに退散を申し出る。
「さて…わらわはそろそろ下がろう。あまり、宮をうろうろするなと、さんざん言われておるし、首様に客人たちのことを報告せねばならぬ。…また、後程、改めて面白い話をききにこさせてもらうぞ、麻呂じい、御客人。」
そう言うと、安宿媛はすっくと立ちあがった。
聡明なこの少女は、石上麻呂の登場に場を譲ったのであろう。自分から立ちあがって、気を利かせて大人たちの話から外れたようであった。
「賢そうな子よね…。」
あかねが感心しながら安宿媛の後ろ姿を見送る。
「ああ、不比等殿もあの子が男だったら…と、嘆いておられたのを聞いたことがあるわい。今の藤原一族の男子にあの子ほど聡明な者はおらぬわ。
もっとも、女子しか出来ぬ役目もあろうがのう…。」
と麻呂は声を落とした。
「と…。一応、留守番爺の役目。お前さんたちに尋問をせねばならぬ…。」
麻呂は改めて乱馬たちに向き合った。どうやら、調べに出向いてきた様子だった。
「お前さんがた、どうやって、この世界へ参られた?」
「んー、簡単に言うと、俺とあかねは変な猿面男に「ともに来い」と声をかけられて、異空間へ引きずり込まれたっつーか…。気がついたら、そこの安宿媛様たちを助けた森の中に放り出されてたんだ。なびきも同じような感じだったんだろ?」
乱馬が即座に答えた。
「ええ、あたしも似たようなものね。気が付いたら、乱馬君とあかねが居た場所へ飛ばされていたわ。」
なびきも頷いた。
「変な猿面男…臭いますね…麻呂様。陰陽寮の術師でしょうか?」
桂が爺さんを顧みた.
「はて、今の陰陽寮に、時空を開くことができるほどの術師が居たかのー。」
と爺さんは考え込んだ。
「陰陽寮?」
乱馬が問いかける。
「大海人皇子様が開かれた、天文学や占星術を良く知り、その能力が高い人々を集めた役所のことです。国中から優秀な人材を集め、暦の編纂や国家事業に関わる占いや呪術を行っているんです。
あなたたちが媛様たちをお助けした少し先には、この前まで漏刻が置いてあって、稼働していた場所ですし…。」
桂が答えた。
「漏刻?」
不思議そうに問い返した乱馬に、なびきが横から言葉をかけた。
「水時計のことよ。ほら、水落遺跡…。あそこにあったのが漏刻…。」
「ってことは、俺たちが居たあの辺りは…。」
「水落遺跡の近くってことになるわね。」
なびきが言い投げた。
「おぬしら、本当に、時を越えて来たのか?時代をさかのぼって…。」
乱馬もあかねも顔を見合わせたが、なびきが先に口火を切った。
「ええ、…この時代から千三百年ほどの後の世から来たことに、恐らく間違いないみたいね。」
「おい…なびき。良いのか?そんな簡単に未来から来たって言って…。」
乱馬が慌てて口を挟んだ。余計なことはあまり言わない方が良いと、忠告していたのはなびき自身だったからだ。それなのに、掌を返したように未来から来たと簡単に口に出した。
「このお爺さんなら、事情を話したら、何とかしてもらえそうじゃない。術者だとか言ってたし…。」
と、損得勘定が得意ななびきらしい言葉だ。利用できる者は最大限に利用しようという合理主義な考えが強い彼女らしい。
「ま…良いか…。爺さんには本当のことを言っても…。嘘ついたところで何も事態は変わらねーだろーし。」
乱馬は渋々頷いた。
「そうか…そなたたちは、時を越えて来なすったか…。」
爺さんは、乱馬とあかね、それからなびきを見比べながら顎髭を撫でた。
「この先に、水落遺跡…いえ、葛城皇子の漏刻があったんですよね?」
なびきが尋ねた。
「ああ。葛城皇子様が作った漏刻は、先頃、新しき宮に移されたがの…。あの辺りは、真神の連中が巣くう甘樫丘とは、目と鼻の先じゃ。今では、都の陰陽寮の陰陽師も役人も足を踏み入れず、残った建物も、すっかり荒れ果てておろうて…。」
と爺さんは吐き捨てるように言った。
「陰陽師とか陰陽寮って何だ?」
乱馬がポソッと尋ねた。彼にはわからないことだらけの古代だった。
「陰陽寮とは陰陽師がたくさん居て、国家的な占い事業なんかを一手に引き受けていたところよ。」
なびきが答えた。
「占いが国家事業だあ?」
「古代において、卜占(ぼくせん)は重要な事業だったみたいだし…。元々、天皇家は、卜占の類を自在に操る力を持った一族だったって説もあるくらいだものね…。土地を耕し豊かにするためには必要不可欠だったの。権力者にとって、暦を作成することは、とっても大事だったのよ。
現に、水落遺跡は陰陽寮の一部だったっていう説もあるくらいなのよ。
あんたたち、知らないかなあ…。安陪清明(あべのせいめい)とかさー…。」
「安陪清明ならあたしも知ってるわ。」
なびきの問いかけに、あかねは答えた。
「知らねーなあ…。誰だそいつ?」
だが、乱馬は首を横に振った。
「平安時代初期に実在したと言われている陰陽師の代表人物よ。小説やテレビドラマや映画にもなったけど…やっぱ、乱馬君は興味がないみたいねえ…。」
「あるわけ、ねーじゃん。」
「ホント、一般常識にも疎(うと)いんだから…。ただの格闘バカよね…。」
「ほっとけ!」
「そもそも時空を開くことは、禁忌(きんき)じゃからのー。誰にでも出来る術ではない。相当な熟練者でないと…危なっかしくて、そう、易々とやれる術ではないぞ…。」
爺さんはゆっくりと言葉を継いだ。
「おい…ってことは、陰陽師が咒法を用いて、時空を開いて、俺たちを元の世界へ返すこともできるってことだよな?」
と乱馬の瞳がにわかに輝いた。
「不可能じゃなっ!さっきも言ったとおり、禁忌の咒法じゃし、必ずしも元の世界に戻れるとも限らん。三人バラバラに違う時代へ流れ着く事も大いに有り得る…。」
「誤差が生じるってことか?」
「まあ、招くより帰すはもっと、難しい施術になるからのー…。少なくとも確実に元の世界へ三人同時に送り届けるのは、相当な鍛練が必要となるじゃろう。そんなことができる術師の話など聞いたことないわい。」
と、突き放すように言った。
「爺さんには無理…なのか?」
乱馬はがっくりと頭をうな垂れた。それを見ながら爺さんは続ける。
「ワシほどの腕でも、無理じゃな…。おぬしたち三人を召喚した術者ならできるかもしれぬが…。そいつを探し当てれば良かろうな。何しろ、三人同時にこの世界へ導いたのじゃからな…。帰すこともできるかもしれぬ…。」
「ってことは、帰るチャンスは、まだ、あるってことね?」
あかねが尋ねた。
「まあ、そういうことじゃな…。安宿媛様と稚媛様を助けていただいたのも、何かの縁じゃ。おぬしら、他に行くところも無いのであろう?」
「ああ。無えよ。こーんな古代に知り合いなんて居る訳ねーもんな。」
「まあ…そうよね…。」
「だったら、ここに滞在しとれ…。もともと、ここは宮が置かれた場所じゃったしな。今は都が遷ってしまって、何も無い唯の田舎となり下がっておるが、食うことと寝ることには困らんじゃろう。」
爺さんが真顔で言った。
「他に行くところもねーし…。ここに置いてもらうしかねーか。」
乱馬はため息を吐き出しながら、頷いた。
「ま、おぬしらの召喚には、恐らく、いろいろ事情が絡みあっておるんじゃろーな。客人が来るかもしれぬという予言は、稚媛様だけではなく、何年か前に、佐留(さる)の奴も言っておったからのう…。」
爺さんは一人、頷いていた。
「佐留?」
「ワシの古い友人じゃよ。陰陽術の達人で、様々な咒法に通じておった。佐留の奴が生きておったら、そなたたちを元の世界へ帰すことができたかもしれぬな。」
「過去形ってことは、故人なのか?」
「多分…な…。」
「ちぇっ!」
「そんなことより、おぬしたち、ここへ飛ばされた時のことを思い出してみなされ。何か、異変はなかったかの?」
逆に爺さんは乱馬たちへと問いかけた。
「あの時、あたしのまわりの皆は、時が止まったように、微動だにしなかったわ…。急に色も変わったわ。」
あかねは思い出しながら言った。
「そうだったかあ?俺は別に、普通に動けたぜ。」
乱馬が言った。
「お姉ちゃんはどうだったの?」
「え?あたし?…。ごめん。良く覚えてないわ。けど、ここに居るってことは、動けたんじゃないかな。よしんば、動けなかったとしても、空間移動に引きずり込まれたのかもね…。
気が付いたら、森の中に投げ出されてて…。あんたたちが変な奴らと戦ってたのが見えたって訳。」
なびきは答えた。
「そうか…時空を開く瞬間、時が止まったように見えた…のか…。」
爺さんの顔が曇った。
「もう、今頃は動いてるんじゃねーの?」
乱馬が言った。
「それはどうじゃろうな…。止まったままかもしれぬぞ。」
「まさかっ!」
乱馬は吐き出した。
「確かめる術もなかろうて?違うか?」
「そりゃ、そーだけど…。」
「ま、追々、事態が見えてくるじゃろうて。稚媛様も何かしら神懸りしてお告げしてくださるやもしれぬし…。」
「まじないや神懸りに頼るしかねーのか…。」
「ワシもいろいろ、古い蘇我の書籍などを漁って、独自に調べてみるわい。」
「でも、麻呂様。蘇我の本宗家が滅んだ後は、彼らが管理していた古い記録は、歴史書を統一するとかの名目で、殆ど燃やされてしまったんじゃありませんでしたっけ?」
桂が麻呂へと問いかけた。
「何、蘇我の古書なら、佐留の奴がかなりの数を写し取って、独自に隠し持っておったからのう…。あいつの書蔵(しょのくら)へ行って、そいつを漁って探してみるわい。」
と爺さんは言った。
「お姉ちゃん、佐留って名前に覚えがある?」
あかねがなびきへと問いかけた。
「さあねえ…。」
思い出そうと首を傾げているなびきの横から桂が答えた。
「佐留様は、麻呂様の幼馴染で、優秀な言霊(ことだま)使いでもあった御方ですわ。」
「言霊使い?何だそれ…。」
「呪言や呪文を巧みに操って、様々な陰陽術をこなす優れた術者のことを、そう呼び習わしています。」
桂が乱馬の疑問に答えた。
「奴が姿を消して数年になるがな…。」
「姿を消しただあ?」
「忽然と消息を絶たれたそうですわ。」
「ってことは、死んだかどうかわかんねーんじゃ?」
「ええ…生死は不明ということですが数年前でしたか…石見国(いわみのくに)でお亡くなりになったと伝え聞きました故…恐らくは…。」
桂は答えた。
「己の寡婦(かふ)を通じて辞世の歌まで、送って来たしのう…。」
「寡婦って?」
乱馬の問いかけになびきがすいっと答えた。
「内縁の妻ってところかしら…。」
「何か…曖昧な話だな…。死んだのか生きているのかわかんねーのか。」
乱馬が疑り深い瞳を爺さんに投げかけた。
「ま、文明の発達した、あたしたちの時代と違って…古代だもの…。疑ってみたって始まらないわ。それより…。その、佐留ってお友達の遺した書を調べていただけるんですよね?」
あかねが尋ねる。
「何かわかったら、隠さず教えろよ。」
と乱馬も口を挟んだ。
「ああ…。任せておけ。何とかなるじゃろう…あはははは。」
「おい、本当に大丈夫なのかよ…。笑って誤魔化そうとしてねーか?じじい!」
乱馬がじろっと爺さんを見つめる。
と、その時だった。女官が一人、ドカドカと部屋へ入って来た。
「麻呂様。今しがた、檜隈女王(ひのくまのひめみこ)様が所用でお見えになりました。」
急な来客を、麻呂へと告げに来たようだ。
「あいわかった。すぐに行く。少しの間、待ってもらえ。」
爺さんの返答を受けると、女官はペコンとお辞儀をして、さっさと部屋を出て行った。
「来客ですか?」
あかねが尋ねると、麻呂爺さんが頷いた。
「まーな。大方、稚媛様に所用があるんじゃろうよ。」
「稚媛様ってあの女の子にか?」
「ああ。稚媛は巫じゃからなあ…。」
「そうですね。乱馬さん、あかねさん、なびきさん。あなた方が皆さん女の方で良かったですよ。」
と桂が頷いた。
「あん?」
その言葉に、乱馬が食いついた。
「男の方が混じっていたら、三人一緒にこの古宮にはお招きできませんでしたからね。」
と桂がポツンと言った。
「男性が居たら、何か、まずいことでもあるんですか?」
あかねが即座に尋ねた。
「一応、男子禁制の宮ですからね。ここは。」
と桂が言った。
「男子禁制…。」
その言葉にはっとして、あかねは乱馬を顧みた。今は女の形をしているとはいえ、乱馬はれっきとした男子である。
「確かに、屋敷内へ入った時から変だと思ってたんだ。男の姿が一切、見当たらねー。まるで男の侵入を拒んでいるような感じがしてたからな…。」
意外な事に乱馬がそんな言葉を吐きだした。
「え?そうなの?」
あかねが乱馬を見返した。
「ああ。外ではあれだけ居た兵士の気配が、屋敷の中では一切しねーからな…。漂ってくる気配は、女ばかりだ。」
乱馬は吐きだした。
「ほう…。おぬし、気が読めるのか。」
爺さんはにやっと乱馬へ手向けながら言った。
「まーな…。このくらいなら読めるぜ。」
と得意げに乱馬が言った。
「何で男子禁制なんです?」
あかねが尋ねると、爺さんが答えた。
「いろいろ事情があってのう…。」
「その事情っつーのは何なんだ?ってか、爺さんは男じゃねーか。」
そうだ。男子禁制なら、爺さんもつまみだされて然りだ。だが、平然とこの場に居る。
「麻呂様は特別です。」
と桂が答えた。
「特別って?」
「麻呂様は広い意味で言えば、男ではなくなっておられますから。」
「あん?」
「その…。男としての役割はもうお年をお召しですから、終えられているんですよ。」
と桂が単刀直入に言った。
「ずいぶん、ストレートな表現だこと…。」
なびきが笑った。
「どういうこと?お姉ちゃん。」
鈍いあかねに、乱馬が横から突いた。
「だからー、男として立たなくなっちまったってことだよ。」
「立たないって何が?」
「ここだよ、ここっ!」
と乱馬が股間を指差した。
「馬鹿っ!なんてこと言うのよ!」
バシンと乱馬をひっぱ叩くあかね。
「痛てーなっ!俺はわかり易く説明してやっただけだろー?殴るなよ!」
叩かれた乱馬はひとたまりもない。文句の一つも吐きだしたくなる。
「…まあ、話せば長いことながら…。簡単に言えば、男は不浄を運んでくるとでもいうのかのう…。」
「たとえば、伊勢の斎宮のような、男子禁制の聖なる場所だとかいうのかしら?」
なびきが尋ねた。
「まあ、そんなところじゃわい。首様以外の男は入れてはならぬ…ということになっておるんじゃよ。」
「男が入ったらどうなるんです?」
「斬られます。それに男避けのための術も張り巡らせていますから…。無事ではいられませんわ。」
ボソッと桂が脅した。
「ってことは…。乱馬…。」
「ああ…下手に変身をとけねーっつーことになるな。」
乱馬は不機嫌に、桂と麻呂爺さんには聞こえないように、吐きだした。
「じゃあ、せいぜい、気をつけなくっちゃね、正体を暴かれないように。」
「だな…。」
乱馬とあかねは顔を見合わせた。
十一、首皇子
「なあ、ヒグマのヒメミコって誰だ?」
部屋を出て行く麻呂爺さんの後姿を見送りながら、乱馬があかねに問いかけた。
「知ってるわけないでしょう…。」
あかねが即答する。
「あの…。余計なことかもしれませんが…ヒグマじゃなくて、檜隈女王(ひのくまのひめみこ)様ですよ。乱馬様。」
と桂が横から口を挟んできた。
檜隈女王。この宮に尋ねてきた、客人の名前だ。
「ヒグマもヒノクマも言葉的には近いんじゃねーのか?クマなんだろ?」
「違いますよ。そんなこと言ったら怒られますよ。」
苦笑いしながら、桂が言った。
「んなの、どっちだって良いんでないか…。で?その檜隈女王ってのは誰なんだ?」
「高市皇子(たけちのみこ)様の娘ですわ。」
「高市皇子や、その娘って言われても、ピンとこねーな…。おめーわかるか?」
あかねに問いかけた。
「そうよね…。高市皇子だって、高校日本史的にはマイナーな人物ですもんね…。石上麻呂さんだって教科書には載ってなかったわ…。檜隈女王にいたっては、「誰、それっ?」て感じよねー…。」
あかねが答えた。
「檜隈女王なら、万葉集に歌がいくつか残されてるわよ…。確か…。」
となびきが突っ込む。
「お姉ちゃんは知ってるの?」
あかねが尋ねると、
「まーね…。」
と答えた。
「ねえ、どんな御方があなたたちの時代まで、名を残されているんですか?」
興味津々、桂が話に割って入って来た。
「この時代でメジャーなのは…。えーっと、柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)とか、藤原不比等(ふじわらのふひと)辺りかな…。お姉ちゃん。」
「そうね…人麻呂は代表的万葉歌人として万葉集にたくさん歌を残しているし…。不比等は時の権力者だものね…。」
「あらあら…人麻呂様や不比等様は名を残されるんですか…。意外…。」
と桂が言った。何がどう意外だったのかは、わからなかったが、鼻先で軽く笑い飛ばしたような気がした。
「石上麻呂様のことは御存知で?」
「うーん、ごめん、あたしは知らなかった。」
あかねが即答した。
「物部麻呂改め、石上麻呂って名前は、確かに伝わってるけど…。高校レベルの日本史じゃマイナー的存在だもんね。」
「マイナーっつーより、マニアックだな…知ってる方が…。」
乱馬がなびきの言を受けた。
「もっとも、麻呂っていうのは、当時の男子の人気の名前だったわよね?戸籍にも何がし麻呂ってたくさん名前が残ってるっていうし…。」
となびきが言った。
「へえー、そうなんだ。」
あかねがなびきの言に関心して問いかけた。
「まーね。麻呂っていう名前は戸籍上でも多かったらしいわよ。庶子から貴族まで、結構、何ちゃら麻呂って付けた名前、多かったみたいよ。ま、当時の日本の流行の最先端の名前というか…。まだ、太郎とか次郎とか順番で表わす名は無かった筈だし…。」
「あ…麻呂様の名前が人麻呂様や不比等様ほど知られてないってわかったら、すねるかもしれませんから、麻呂様には黙っててくださいね。」
と付け加えた。
ざわざわと辺りが俄かに騒がしくなり、トタトタと足音が複数したかと思うと、乱馬たちがたむろしている部屋へとなだれ込んできた。
一人は、昨日助けた巫の少女、稚媛。そして、もう一人は見なれない十三歳くらいの少年だった。髪は長くひとくくりにし、着ている着物は狩衣の淡い青色。
「お、首(おびと)様っ!」
少年を見ると、仰天したように、桂はその子を省みた。
部屋へ入って乱馬たちを見つけると、稚媛は少年を抜き去り、トトトと二人に近寄って来ると、ダッと乱馬の袂へと駆け寄った。
稚媛は、部屋へ入るや否や、無言で乱馬の膝によじ登ると、親しげに、にっと笑った。胸元には、鏡が淡いブルーの輝きを放っていた。
「おお、こいつらか。媛たちを助けてくれたという客人は。」
変声期のガラガラ声が少年から発せられた。興味深々という顔で、乱馬たちを見比べている。
稚媛は人懐っこい笑顔を乱馬に手向けて、そして、両手を広げ、「あー、あー。」と懸命に言葉を発して何かを言おうとしていた。が、生憎、言葉にならなかった。
「そうか…。なるほど、変わった格好をしておるな。」
特に、乱馬の赤いチャイナ服を物珍しげに眺めている。あかねやなびきの現代少女風のいでたちも、目を丸くして眺めていた。
「なあ、中身はどうなってるんじゃ?、そうじゃな…おまえ、脱げっ!」
と少年は、乱馬に命令した。
「なっ、何だとお?」
目くじらを立てた乱馬などお構いなしに、少年は暴言を吐きだす。
「我に身体を脱いで見せよ。異世界の人間も同じような身体をしておるのか見たい!」
と少年は乱馬にせっついてきた。
「はあ?」
唐突な少年の申し出に困惑気味な乱馬に、桂がこそっと耳打ちしてきた。
「逆らわない方が無難ですわよ…。下手をすると首が飛びますわよ。」
「そうじゃ、早う脱げっ!」
少年はにんまりと笑った。
「な、何でだ?何で、こんな子に裸見せなきゃならねーんだ?」
怒鳴りかけた乱馬に、桂が言った。
「皇子様の命令だからです。」
「皇子?」
きびすを返した乱馬に、桂が慌てて言った。
「いずれ皇位に立たれる、大王家の嫡男の首皇子様だからです…。」
その言を受けて、少年が笑った。
「そうじゃ。余はいずれ尊皇になる嫡男の皇子じゃ。わかったら、さっさと脱いで見せよっ!それとも、余が脱がせてやろうか?」
と不敵に笑った。
「じ、冗談じゃねーぞ!このスケベガキがっ!」
思わずすごみかけ乱馬の背後に回ったなびきが、いきなり、チャイナ服を剥ぎ取った。
ぷるりん。
乱馬のおっぱいが、少年の前にこぼれた。
「なっ!なびき、てめーっ、何すんでーっ!」
なびきの間髪入れぬ迅速な脱がせ術に、思わず、乱馬は怒鳴っていた。
「乱馬君、ここは大人しく言うことをきいた方が良いわよ!でないと、皇子はあかねやあたしにも脱げと言い出しかねないわ。あんたなら、裸体を皇子様に見られても被害が少ないでしょう?」
となびきが、もっともらしいことを耳元で話しかける。
「う…。」
確かに、なびきの言うとおりだった。この場であかねが同じ事をされたら…。そうなれば、確実に修羅場と化す。
あかねに我慢は通じないだろうし、乱馬もあかねの乳を大衆の面前に晒したくは無い。
「ほら、首様。仰せのとおり、脱がせました。お気が向くまで、御覧下さりませ。」
となびきは、煽るように返す言葉で少年を誘う始末。
「うむ…。ほう…。異世界の女にも乳が備わっておるのか…。ふむ…。なかなか良い形をしておるのう…。」
じっくりと乱馬の上半身に見入った。
「ちょっと触らせてみよ!」
今度は触ってみたいと所望する、少年。
と、背後から、怒気のような激しい気が、その言葉と同時に流れ込んできた。
「お〜び〜と〜さ〜ま〜…。」
ハッとして一同が目を手向けると、入口で、安宿媛が物凄い形相で、睨み据えていた。
「いい加減になさいませーっ!」
弾けた言葉に、首皇子は、慌てて首皇子は言い訳しにかかった。
「い…いや、余は、この女にも、同じように乳があるかどうか確かめたかっただけじゃ!」
そして、こそっと乱馬の背後に回って隠れ込んだ。
「お…おい?」
おいっぱいをむき出したまま、乱馬は背後に回った皇子を振り返る。と、前に、安宿媛が立ちはだかった。
「触ろうとしていらしたくせに…。」
怒気をたぎらせて、乱馬の背後に隠れた皇子を睨みつける。
「どーせ、私の乳は小さいですわっ!このお方ほど溢れておりませぬ!それでも、かまわぬとおっしゃってくださったのは、首様でしょう?なのに…。」
そう言いながら、拳を突き上げる安宿媛。
「わっ!よせっ!安宿媛っ!」
バタバタと一悶着が始まった。
その傍らで、きゃっきゃと稚媛が笑いながらはしゃいでいる。
「いったい…何だってんだ?」
呆気に取られて、首皇子と安宿媛のやり合いを眺める乱馬に、
「安宿媛様の嫉妬が始まったわ…。」
と桂が朗らかに笑った。
「嫉妬?」
「ええ…。安宿媛様はあれでいて、かなり嫉妬心がお強いんですよ…。まあ、首様も御年頃ですから、女体に興味をもたれることは仕方がないのですが…。許婚の安宿媛様にはたまらないのでしょうね…。」
「ヤキモチ妬きの許婚ねえ…。そいつは、何か、他人事には思えないよな…。」
己の傍にも強烈なヤキモチ妬きが居る。
「あんたもいい加減、その胸、しまいなさい!ど変態っ!」
そのヤキモチ妬きがにゅっと乱馬の横から声をかけた。あかねだ。
「ど変態だと?」
「そーよ。ここぞとばかりに、嫌みのように豊満な胸、放り出したまま威張らないでよっ!」
「そーだな…。おめーのは俺のよりかなり、小さいもんなっ!」
つい、いつものクセで暴言が溢れ出る。
「だから、辞めてよねっ!ど変態っ!」
「うるせー。ど貧乳っ!」
「なんですってえ?」
際限ない言い争いが始まってしまった。
「ちょっと、乱馬さんとあかねさんまで…。何なんです?」
桂が呆気にとられた顔をして、二人を見比べた。
「あーあ…。また、喧嘩をおっぱじめちゃったわね…。仲が良いんだか、悪いんだか…。」
額に手を当てながら、なびきが溜め息を吐きだした。
その傍らで稚媛は、手を叩かんばかりにはしゃいでいる。弾けんばかりの笑顔で嬉しそうだった。
「いつも、このように楽しく過ごせれば、お幸せでしょうに…。」
桂がそう言いかけたところで、はしゃいでいた稚媛の顔がみるみる曇った。
と、ドカドカと複数の足音が、乱馬たちの居所目掛けて、無遠慮な足音が多数近づいてきたからだ。
足音は乱馬たちの居所の傍で止まる。
「まったく、いつまで客人を待たせるのじゃっ!」
肝の据わった低い女の声がした。
振り返ると、声の主に相応しい、どっぷりとした女がこちらを向いていた。巫女装束ではない。派手ではないが、光沢のある黒っぽ絹をまとっていた。後ろには、若い女性達をつき従えて、一目で身分が高い女だとわかった。
「これは、檜隈女王(ひのくまのひめみこ)様。」
大慌てで桂が頭を床面に着けた。
「ヒグマのひめみこ?」
そうかたどりかけた乱馬の口を、桂は脇から大慌てで横から抑えつけた。
「もう、乱馬君ったら、そんな失礼な言葉を投げかけて首が飛んでもしらないわよ…。」
なびきがため息を吐き出した。
「そうですよ。乱馬さん。檜隈女王は高市皇子様の娘様なのですから。」
桂も小声で付け加えた。
檜隈女王はチラリと乱馬を一瞥して、フンと鼻息を噴出した。どうやら、「ヒグマ」という言葉の意味が通じなかったのだろう。
「何ですかっ!安宿媛!首様までこんなところに連れ出してらっしゃって!」
と一喝した。
じゃれあうようにやり合っていた、首皇子も安宿媛も、檜隈女王の登場に、共に、静かに収まった。
「全く、稚媛!このような得体の知れぬ者たちと一緒に居て、その巫の力が削がれてしまっても知りませぬよ!」
と無遠慮な言葉を投げつけてきた。
「それに、安宿媛。聞けば、そなた、昨日、稚媛を危険な目に合わせたそうではありませぬか。」
今度はその口の刃を、安宿媛へと叩きつける。
「でも…あれは…。」
何か反論しかけた安宿媛を、檜隈女王はきつい瞳で睨みつけた。
「黙らっしゃいっ!そなたが、美千代様や不比等様の娘とて、今度あのように稚媛に危険が及ぶようなことがあったら、容赦はしませぬぞ!良いですねっ!」
その言葉に、安宿媛の顔が曇った。そして稚媛の顔も一瞬、凍りついた。嫌な者を見る目つきで、檜隈女王を見返す。
「首様も居所へお引揚なさいませっ!いくら今日は具合が良いと言っても、完全に治ったわけではないのでしょう?安宿媛、さっさとお連れなさいませっ!それから、稚媛様はお勤めのお時間です。参りましょう。」
そう一気にまくしたてると、檜隈女王は、むずがる稚媛の手をガシッと掴み、この場から引きはがしにかかった。
「ちょっと、乱暴なっ!」
とあかねが言いかけたのを、乱馬は意識的に止めた。
「そっか…。何か良くわかんねーが…。おまえ、勤めがあるんなら、それを優先させなきゃな…。稚媛様。」
と、稚媛に柔らかく言葉をかけた。
「おわかりいただけだら、さあ、これから朝まで、わらわと共に、御勤めをなさりませ。」
檜隈女王が、きつくあたってきた。
「これから朝までですって?」
檜隈王女のかけた言葉に、あかねが目を丸くした。
「こんな小さな子を夜通し御勤めさせるんですか?」
冗談じゃないと言わんばかりの勢いだ。
「やめろっ!あかねっ!」
食ってかかろうとするあかねを、乱馬がグイッと押しとどめた。
「でも…。」
「でも、じゃねえっ!この時代には、この時代の事情ってーのがあるんだから。余所者の俺たちがとやかく口を挟むこっちゃねー!
夜通しの御勤めだろうが何だろうが、稚媛様の勤めるべき祭事なら、止める権利なんて、俺たちには(ね)ーんだよっ!」
珍しく、乱馬が真剣にあかねに対峙して止めた。そして、厳しい瞳を檜隈女王へ手向けていた安宿媛の方にも声をかけた。
「稚媛様の仕事なら、ちゃんとやらねーとな…。なあ、安宿媛様もそう思うだろ?」
「そうじゃな…。稚媛。それぞれ役目は果たさねばならぬ…。それが意にそぐわなくても…。それが、巫のそなたの役目なら、優先せねばなるまい…。」
安宿媛が語りかけると、むずがりかけていた稚媛はコクンと頷く。そして、自ら、乱馬の傍から立ち上がる。檜隈女王の脇に立って、無言で部屋の外へ向かって歩き始めた。
「首様も体調を崩されれば一大事じゃ。皆が心配する。」
「わかった…。部屋へ戻ろう。」
安宿媛の促しに、首皇子は素直に従った。
「いいの?乱馬…。」
いぶかるあかねに、
「良いんだよ…。これで…。」
と乱馬は言いきった。
「でも…。」
食い下がろうとするあかねを、乱馬は右手で制した。
「おめーの言いたいこともわかるが、これ以上は、介入になる。」
乱馬は、立ちあがった稚媛にそう言葉をかけた。
「また、時間ができたら、いつでもここへ遊びに来いよ…。稚媛様、安宿媛様…それからついでに首皇子様も。みんなまとめて、遊んでやらあ。」
稚媛も安宿媛も、共に一瞬立ち止まり、乱馬の方へ顔を向けると、コクンと頷いた。少しだけ微笑んだ。
そして、稚媛は檜隈女王と一緒の方向に、安宿媛は別の方向に、それぞれ立ち去って行った。
その後ろ姿を見送りながら、ふううっと桂が長いため息を吐き出した。
「稚媛様は、本当にお気の毒な媛様ですわ。もっと楽しく御自由に首皇子様や安宿媛様と遊びたいでしょうに…。夜もちゃんと眠りたいでしょうに…。それもままならぬとは…。
それに、檜隈女王様も、以前はあんなにきつい御方ではなかったですのに…。」
とポツンと吐き出した。
「おい…あの稚媛様って一言もしゃべらなかったが…。もしかして…。」
怪訝な顔で乱馬が言葉をかける。
「稚媛はお話にはなれませぬ。」
「それって、どういうこと?」
あかねがキョトンと言葉を返すと
「言葉が喋れねーってことだよ。気がつかなかったか?」
乱馬は厳しい顔をして答えた。
「ちょっと曰くつきの御方ですゆえ…。」
ぽそっと桂が言った。
「曰くつきって?」
「たとえば…。」
そう前置きしながら、なびきが口を開いた。
「古代社会では、同族同士の血の繋がりを結構重視していたと言われていますから、喋れないとなると…そういった血の濃い父母から生まれた子ってことも考えられるわね。」
「血が濃いって?」
「血縁関係が近い両親ってことよ。奈良時代ごろまでは異母、異父兄弟姉妹間の婚姻は法律上でも認められていたようよ。
実際、天皇家は血族結婚でその純血性を保ってきたとも言われているしね。だから、母親の出自が、即位に影響したんでしょうし…。」
「へええ…。そうなんだ。」
「さすがに、実の親子や同母兄妹の婚姻はタブーだったみたいだけどね。」
なびきが付け加えた。
血縁が濃い者同士が婚姻を結べば、予期せぬ子供が生まれることがある。有能さと危うさは表裏一体の形をとることが多い。また、法律で濃い者同士の婚姻が制限されている現代とは違い、古代の支配層では、特別な能力を保持するために、血が濃い者同士の婚姻が容認されていた時期もある。
なびきが言うように、古代日本社会では、異母兄弟や異父兄弟間の婚姻は容認されていたのだ。天智天皇も天武天皇も、お互いの子どもを娶っている。天武天皇の正妃、持統天皇の父親は、天武天皇の同母兄の天智であることからも、うかがい知ることが出来る。
とはいえ、尤も血の結びつきが濃い同母兄妹の婚姻は、さすがに、禁忌(タブー)視されていたようだ。
「ねえ、じゃあ、稚媛様のご両親は、どなたなんです?」
「さあ…。」
桂は大きく首をかしげて見せた。
「さあって…。」
「稚媛様のご両親については、様々な噂は飛び交っていますが…それも、どこまでが本当のことか…私たちにはわかりません。あまり、深く詮索なさらない方が、よろしいかと思いますよ。」
桂は深く追求するなと、暗に提言するような言い方をした。
「いろいろ事情があるんだろーよ。あんまり、俺たちが詮索しない方が良いんじゃねーの?誰の子だって言われたって、この時代のことはさーっぱりわかんねーから、ピンと来ねーしよ。」
乱馬があかねをたしなめるように言った。
「稚媛様は全く喋れないわけではないのですが…。普段は殆ど、口を開かれません。」
桂は顔を曇らせながら続けた。
「神託を告げる時、それから、心を許したごく限られた方にだけ、稀に聞こえないほどの小声で話されるのですよ。」
桂が言った。
「神託を己の言葉で告げるっていうことは…腐っても巫女ってわけか…。」
この年で神託を告げる仕事をしているのだ。何か精神的に追われていることでもあるのかもしれない。それはそれで、痛々しいと乱馬は思った。
「御両親の名前は明らかではありませんが、でも、やんごとなき身分の方だということは、内々で言われています。」
と桂がぼそっと言った。
「ってことは、皇族なんですか?」
「恐らく…皇族又はそれに連なる家系のお方だと思いますわ。」
「そんな、曖昧な情報しかねーのか…。」
「皇族と言っても、数多いらっしゃいますからね。直系傍系含めますと数え切れないくらいに…。皇尊の落とし種ということも有り得るわけですから…。それから、稚媛様はツクヨミの力を持っていらっしゃると伺っています。」
「ツクヨミの力?どんな力だ?」
「黄泉を統べる魔力…とでも言いましょうか…。どのような力かは、私も生憎、存じ上げませんが、麻呂様にそんな話をチラリと聞いたことがあります。」
桂が言った。
「ツクヨミの力ねえ…。ツクヨミって何だ?」
「ねえ、なびきお姉ちゃん、月読命(つくよみのみこと)って神様がいたわよねえ…。」
あかねがポツンと吐き出した。
「ええ、三貴神の一人ね。」
なびきが頷く。
「三貴神?」
「イザナギノミコトが黄泉の国から帰ってきて、アワギハラで禊していたときに生まれた貴神。アマテラス、ツクヨミ、そして、スサノオ。この三柱の神を指して、そう言うわ。まあ。俗に、アマテラスは太陽の神、ツクヨミは月の神、スサノオは常世の神とか言われてるけど…。乱馬君は聞いたことない?」
「アマテラスやスサノオはきいたことがあるが、ツクヨミってーのは、知らないなあ…。で?ツクヨミの力ってーのは何なんだ?」
乱馬が問いかける。
「超能力でも持ってるのかしらねえ。」
なびきが言った。
「例えば、どんな力だよ。」
乱馬は半信半疑の瞳を巡らせる。
「占いが得意だとか…。そういう力じゃないの?」
あかねが答える。
「占いねえ…。占いって超能力か?」
「うーん…。」
考え込んだあかねに、なびきがポツンと言った。
「古代社会は、占い社会と言っても過言では無いほど、占いがまかり通った世界だったようだから、巫女の力も、ある種の特殊能力に入るんじゃない?」
「稚媛様のご両親やツクヨミの力のことは、あんまり、深く追求しないでくださいませ。いろいろ、こちらにも事情というものがあるので…。」
桂が声を落として忠告を発した。
「触らぬ神に祟りなしっていうものね…。桂さんが言うとおり、これ以上は関わらないで居た方が賢明かもね…。」
なびきが桂に同意するように言った。
恋愛が比較的自由奔放だった古代だ。子を産んだ本人も誰の子かわからないことも、多かったのかもしれない。
だがその口ごもり方から、もしかして、桂は、この子の親のことも何もかも、本当は知っているのかもしれない。乱馬もあかねもそう思ったが、これ以上何も聞き出せないだろう。
「で、わかっているのは、この宮で養われているってことくらいか…。」
「はい…。特に稚媛様の卜占の能力は伊勢の斎宮様をも凌ぐと言われていますから。ですから、陰陽寮の長でもあった麻呂様が預かられたのですわ。」
「じゃあ、あのじじいが養ってるって訳か?」
「そういうことになりますわね。」
桂が頷いた。
「稚媛様が同じくらいの年齢の御方と接するのは、首皇子様と安宿媛様が最初かもしれませんわ…。この宮や隣接する陰陽寮には子供はおりませぬから。」
「ってことは、安宿媛様はこの屋敷の子じゃないってことですか?」
あかねが問いかけると、桂が頷いた。
「ええ。お父上の不比等様直々の申し出によって、こちらでしばらく過ごされることになり、つい先月、首皇子様と共に、こちらへ参られたのですわ。普段は、平城新京で暮らされています。」
「ま、貴族の子供だったら、都に居て当然だろうな…。」
「避暑とか避寒のために来る季節じゃないわよね…何でまた、都からここへ来たの?」
あかねが問いかけると、
「それも、いろいろと事情があってのことですわ。」
と桂が流した。
「皇子は男なのに、宮に居ても平気なのか?」
当然の疑問を乱馬は投げかけていた。
「大丈夫です。皇子様はまだ、本当の意味での男にはなっていらっしゃいませんから…。」
さらりと答えた。
「男になってないって…。もしかして、アレがまだとかか?」
乱馬がぼかして問いかけた。
「アレって何よ…。」
あかねが突っ込むと、乱馬は顔を真っ赤にしながら言った。
「その…女の初潮みたいなもんだよ…。男にもあるだろ?」
と乱馬が怒ったように吐きだしたが、あかねは首を傾げた。
「男に初潮?…そんなの無いでしょ。」
「あるんだよ!」
乱馬は言った。
「あんたにはあったの?」
こそっと問いかけるあかねに、乱馬はこそっと答え返した。
「あった!」
「男の子に初潮?」
まだ、わからないあかねに、なびきがこそっと耳打ちした。
「あかね、年頃の男の子には…夢精っていう現象が起こるの。」
「夢精?」
「ええ…。世の男ってのはね、精子を作れるようになると、無意識に発射してしまうことがあるの。たとえば、無防備な寝ているときとかにね。だから夢精って言うんだけど…。乱馬くんが言ってるのはそのことよ。」
とぼそぼそっと吐きだす。
「へええ…。そうなんだ…。そんなのがあるの…。ねえ、乱馬。あんたにもあったんだ。」
とあかねは乱馬へと、小声で吐きだす。
「馬鹿っ!うるせえっつーのっ!」
と、真っ赤に顔を染めた乱馬に、怒鳴り返されたのも無理は無かろう。
三人三様の様子を見ながら、桂は言った。
「首様はまだ、男にはなられていらっしゃらないんですよ…。まだ、成年式もお済みになられていらっしゃいませんしね。
さてと…。私も自分の御勤めがありますので…。下がります。午後は、皆さまでごゆっくりしてくださいませ。」
そう言うと、桂は、部屋を辞して行った。
雨はまだ、ざあざあと音をたてて、降り注いでいた。
つづく
ちょこっと解説
首皇子
後の聖武天皇。
どこでどのように育てられたかは詳らかではありませんが、多分、藤原不比等に近いところで養われていたのではないかと思います。当時の皇子名というのは養育にかかわった氏族にちなんでつけられた呼び名が多いのですが、首氏なんて聞いたことないし…。不比等が関わっていたから首なのかなあと語呂あわせ感覚で思うこともあります。
作品が作品なので、安宿媛とは許婚ということで括ってあります。最初は安宿媛共々登場させる予定が無かったのですが、乱馬とあかねも許婚同士なので、それを利用しない手はないと…(笑
作品の時代背景
一応、七一四年の春先、新暦の三月末、彼岸あたりを設定してこの作品を書いています。首皇子は七〇一年生まれなので満十三歳。昔風で言えば一五歳ということになります。安宿媛も同じく七〇一年生まれと伝わっています。
七一四年六月、首皇子は成人式を迎えています。(続日本紀)
石上麻呂
またの名を物部麻呂。物部氏出身の大臣です。改名して石上麻呂。壬申の乱の辺りから記紀に記述が認められます。
「続日本紀」などには七一八年七八歳で卒したと記録されていますので、かなりの長寿だったようです。
左大臣<右大臣というのが冠位関係でしたから、右大臣だった藤原不比等より石上麻呂は上位だということになりますが、実際の政権は不比等ががっちり握っていたと考えられています。
平城京へ遷都後、留守として藤原京を預かっていたという記述が「続日本紀」にあります。
当然のことながら、本作品はフィクションで作文しています。麻呂が陰陽術者というのも創作です。
余談になりますが、都(首都)が平安京から東京へ転じた時、鎌倉時代に活躍した歌人として著名な藤原定家の末裔の一族でもある冷泉(れいぜい)家が平安京の留守を天皇から預かったそうです。他の皇族や公家が東京へ転じても、冷泉家だけは御所の北にて、今もなお、頑なに京都の留守を守り続けているそうです。京都では、宮様(天皇)は東京へちょっとの間、お出かけになっているだけで、再び京都へ戻ってくるとおっしゃる方が多いです。
安宿媛
藤原不比等が橘美千代との間にもうけた娘、聖武天皇の正妃となった、藤原明子。後の光明子です。
聖武天皇亡きあと、その思い出の品を収めたのが正倉院。
正倉院展にて、彼女直筆の「楽毅論(がっきろん)」の臨書を拝観する機会がありましたが、その字を見るからに、勝ち気さと聡明さを持ち合わせた彼女を見るような気がしました。三女は強し…あかねちゃんに通じるかも(笑
作品はもちろん妄想と創作です。
あざなといみな
「あざな」(字)は本名の他につける名前で、「いみな」(諱)は本名ということでご理解ください。
檜隈女王と高市皇子
高市皇子の娘として、勝手に妄想を膨らませて設定して書いています。
高市皇子は天武天皇の実子のうち、最年長の皇子と言われています。日並皇子(ひなみし)と呼ばれた持統女帝の息子、草壁皇子に対して、高市皇子は「後皇子(のちのみこ)」と呼ばれていました。
母の身分ゆえか、即位からは遠い存在でしたが、それなりの実力者として名を馳せていたようです。
彼の子に有名な「長屋王」が居て、これまた覇王争いの元の一つとして有名な「長屋王の変」の当該者として、冤罪を着せられて斬殺されました。
続日本紀では、高市皇子の邸宅は天の香具山の西麓にあったと記されています。崩御したとき、「泣沢」近くで殯宮が営まれ、檜隈女王と柿本人麻呂の壮大な挽歌が萬葉集に残されています。最初、泣沢宮を中心に話を転がしていたのですが、途中で変更しました。
ついでに言いますと、「挽歌」とは人が死んだとき、棺桶を乗せた車を挽(ひ)きながら歌った歌というのが本来の意味だそうです。
檜隈女王は、高市皇子の娘ではなく、妻だったという説もあります。
本作での天皇の名前記載について
天武天皇、持統天皇、文武天皇、元明天皇と続く天武系の天皇ですが、実はこれはこの時代よりも少し後になって付けられた「漢風諡号」(おくり名)なので、飛鳥時代にこう呼び習わされていたわけではありません。
現在使われている神武天皇から元正天皇までの漢風諡号は奈良時代後半、淡海三船(おうみのみふね)が制定したと言われています。つまり、平城遷都辺りの日本には、現在では当り前に使われている「漢風諡号」が天皇名として存在していません。「天皇」と言う言葉はすでに使われ始めていたと思いますが(天武天皇辺りでそう呼ばれるようになったと思われます。)、一般に浸透していたかは不明のため、今上天皇の元明は「皇尊(すめらみこと)」と表記し、あとは、通称の皇子皇女名で書くことにさせていただきます。
天皇は「尊皇(すめらみこと)」または、「大王(おおきみ)」と表現することにしました。「大君」という字もありますが、「大王」の方がより元の形に近いという説を取り、そう表記していきます。(萬葉集の原文は、圧倒的に「大王」の表記が多いそうです。)
天武天皇は大海人皇子(おおあまのおうじ)、
持統天皇は鵜野皇女(うののひめみこ)又は鵜野(讃良)皇女(うのの(ささらの)ひめみこ)、
文武天皇は珂瑠皇子(かるのみこ)、
聖武天皇は首皇子(おびとのみこ)
と広く知られている皇子・皇女名で表記します。文武帝の珂瑠皇子については、軽皇子の方が一般的ですが、「珂瑠」をあえて使わせていただきます。
当時の皇子・皇女名は養育に関わった氏の名前や地名からつけられていることが多いそうです。
また、「不知火」で少し言及していますが、「大兄(おおえ)」の名前も称号的な呼び方で皇太子またはそれに準ずる可能性がある皇子に付けて呼び習わした敬称だという説があります。故に本作では、中大兄皇子を「葛城皇子」、山背大兄皇子を「山背皇子」と表記しますのでご了承ください。
言葉の問題
同じ日本語でも鎌倉時代まで遡ると、最早、外国語。現代の言語は発音が全く違っていて、現代人と戦国人では会話が流暢には流れないだろうと、言語学概論で習った記憶があります。
奈良時代は発音自体が、今よりも複雑で多岐にわたっていたと、現存する万葉仮名の文献から推測できるそうです。現代語では「い」と「ゐ」、「え」と「ゑ」、「お」と「を」の発音上の区別はありませんが、奈良時代はそれぞれ発音の仕方が違っていたようです。「ゐ」と「ゑ」に至っては、第二次大戦後「い」と「え」に表記も統一されて久しいです。
また、「はひふへほ」も鎌倉時代以前は、確実に唇が合わさる「F音」として発音されたいたということが、文献から推測できるそうです。
戦国時代にタイムスリップしたかごめちゃんと犬夜叉だって、本来、あんなに流暢に会話が通じなかったと思われます。言語的な問題は、創作ということで一切、不問にしました…ってことでご理解ください!(逃走)
(古代語と現代語が何故通じているかは、後半部で明らかにしました。)
(c)Copyright 2013 Ichinose Keiko All rights reserved.